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八高線橋梁 |
高崎と八王子を結ぶ八高線、ほぼ関東平野西縁に沿って
敷かれた線路であるから、関東平野に流入してくる河川を次々と越えていく.
高崎から出発すると、まずは利根川水系の鳥川を渡る.埼玉県に入れば、寄居町でまず荒川本流を越えた後、越辺川、高麗川など荒川支流入間川水系の
川を次々に渡り、飯能市で入間川本流を渡って荒川水系は終わる.拝島駅で、多摩川水系に沿って敷設された青梅線と交わり、この橋梁で多摩川の本流を
越え八王子市に入る.
鉄道の橋は平凡なことが多い.山襞の間を縫って流れてきた多摩川の流れも、いよいよ平野に吐き出されるこのあたりまでくればもう静かだろうから、
橋脚を作ることにさほど苦労はなかったのだろう.この橋は鋼桁の長さにあわせて一定間隔に橋脚を並べたガーター橋だ.乗っていると鋼桁を踏みつける
ガタガタという音がしてくるから橋に差し掛かかればすぐ気づく.鉄道に乗っていれば鉄橋は音で知るものだ.疾走する電車では、時たま訪れ
てくる急な変化であって、気づいて車窓に目をやれば広い川原を見おろせる.鉄道の旅にメリハリを与えてくれる心地よい変化である.
大気の澄んだ冬の朝、八高線の電車がこの多摩川橋梁にさしかかると、車窓からは奥多摩、奥武蔵の山々の並びを眺望することができる.
形状の特異な大岳山のありかはすぐに気づくことだろうから、それを基準に次々に山名を特定していくのは、奥多摩の山を知っているもので
あれば難しくない.広い河川敷で視野をふさぐものがないから奥多摩の山々を見渡す絶好のポイントだ.
毎日、人々を渡しているこの平凡なこの橋も、たったひとつだけ過去に不名誉な記憶を残している.それは半世紀も昔のことだが、ここが鉄道事故の
現場であることだ.橋梁の上で正面衝突という凄惨な事故は、終戦直後この多摩川橋梁の上で起こっている.
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