郡内の南部は、相模川の支流である桂川の流域である.甲州街道は、この桂川を遡上し笹子峠によって、
分水稜を越え、富士川流域である甲府盆地に入っていた.笹子雁ガ腹摺山はこの分水稜上のピークのひとつであり、峠の南南東に位置する.鉄道、国道、高速道路と
現在の交通機関はいずれも笹子と名のつく長いトンネルでこの分水稜を越えていく.中央自動車道を走っていてひときわ長く感じる笹子トンネルなど、それらはいずれも
この雁ガ腹摺山の下に貫かれているのである.
このあたり、雁の群れは、よほどなじみのあるものだったようで、奥秩父の山々を越える雁坂峠や雁峠という地名は雁の飛ぶ地に由来することはよく知られている.
そしてこの山の名も、まさにその通り道にあることを示したとても素朴な地名である.笹子と頭に着いているのは他にも同名の山があるからである.大菩薩峠から南におりてき
た小金沢山の南には、牛奥ノ雁ガ腹摺山があるし、その南東には1874メートルの雁ガ腹摺山がある.後者はかつて五百円札の裏側の図柄に使用されていた富士山の見え
る場所として有名だ.二者に比べると、この笹子の方は1357メートルと一回り低い山であり、登ること自体はそれほど楽しみはなさそうだが、富士にも近く山頂の展望も優れて
いるから、笹子駅を起点とした手軽な日帰りハイクの対象となっている. |