聖岳、聖平の小屋を拠点にして山頂を往復することが多い山である.聖平小屋へは、静岡県側と長野県側から2つ登山ルートがある.1つめが、最も一般的なもので、聖沢の南にある尾根に
設けられた登山道を登るコース.大井川筋は、自家用車が入れないから、畑薙ダムの奥にあるゲートから先は東海フォレストの送迎バスを使うことになる.畑薙ダムから早朝の送迎バスに乗り
聖岳の登山口で降りるか、あるいは前日さわら島ロッジまで行き、ここで宿泊し翌朝のバスで登山口まで送ってもらうことになる.いずれをとるにしても、早朝登りはじめないと山頂まで達するの
は難しい.
もうひとつの長野県側ルートは、遠山川から登るもので便ヶ島から登山道がある.前半は林業用に使われていたトロッコ跡を辿り、西沢の渡しを越えると、後半の樹林中の急な登りになる.
このルートは聖平より山頂側にある薊畑で聖岳の登山道と合流している.便ヶ島の聖光小屋までは、自家用車で入れることから、近年こちらのルートの利用者が増加しているようだ.足が強
ければ、日帰りでさわら島まで下って一泊ということも可能かもしれないが、通常は聖平小屋に泊まり、翌日いずれかのルートを下山することになるだろう.
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2004年と2006年 |
2004年、聖岳に登った時には聖沢ルートを辿った.このときは、結局ガスで展望のない山頂を踏むことになり、翌朝早々に長野県側の聖光小屋に下っている。
天気が悪かったこともあって、とにかく山頂を踏んだだけのなんとも気の抜けた山旅であった.
そこで、2006年再度聖岳に登ることにした.同じルートを2度登ることもないので、茶臼岳側から赤石岳まで縦走することによって聖岳の山頂にもう一度立つことにした.縦走を計画するとこの山は
やや厄介な存在だ.小屋は聖平の次は百軒洞までなく、聖岳を登った先には兎岳、小兎、中盛の丸山と登り返しが続く.さらに百軒洞で泊まっても、さらに赤石岳を越えない限りは静岡側に下山できない.
現地にアプローチする時間を入れると、聖平までで2日間、赤石を越えさわら島に下るまで2日間、さらに東京に戻ってくるに1日と最短5日間の行程だ。このような条件があるから、この区間は南アルプス
の中でも一段と縦走者は少ないようである.
どうせ2日必要になるのであれば、さわら島に泊まってすでに登っている聖沢沿いの登山道をいくこともないから、上河内岳側から縦走することにした.このルートは、畑薙ダムにかかる長い吊橋から始まる
上河内沢に沿った登山ルートで、道はよく整備されているが、利用者は少ない静かなルートである.
畑薙ダムのバス停を歩き出し湖岸の林道を吊橋の元まで進む.ゆれる橋を渡り終えるとさっそく登りに入り、ヤレヤレ峠に達した.峠であるから、上河内沢に向かっては下りになり、いったん沢床に降りてか
ら沢に沿った登山道を進むようになっている.登山道は上河内沢に架かる吊橋を渡りながら登っていき、ウソッコ小屋に着いた.ウソッコ小屋は木造の無人小屋で、広く快適である.管理人のはいっている次の
横窪小屋まではまだ2時間ほどかかるので、初日はここで泊まることにした.
翌朝ウソッコ小屋を出ると、急な登りが始まる.登りが尾根の上に出てゆるくなると横窪峠についた.下って沢を渡った先に横窪小屋がある.ここで休息し、水を補充して歩きはじめる.小屋の裏手から
登りが始まり、樺段まで結構きつい登りが繰り返し現れる.登山道が横窪沢側に出ると、前方に茶臼小屋が見えてきた.
予定では、この日のうちに、茶臼岳に登り、稜線を聖平まで向かってしまう計画であった.茶臼小屋についたのは、まだ午前中であったが、今後の天候がどうにも期待できなくなったので、この茶臼小
屋で一泊し、明日は聖平から下ってしまうことにした.少しガスが晴れれば、小屋から茶臼岳まで往復しようと考えていたが、結局機会のないまま夜を迎えてしまった.
三日めは、朝から小雨の中を進み上河内岳山頂の分岐に至った.山頂までは20分ほどの往復である.視界はなさそうだが一応登っておくことにした.山頂を踏んで縦走路に戻り、南岳を経て聖平に下った.
聖平の小屋の前で昼食を食べそのまま下山にかかる.計画では昨晩はここ聖平、明日は百軒洞に泊まる予定の山旅は、聖沢の登山道を下ることで終わった.
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2006年縦走 |
日をおいて、遣り残した仕事を完遂すべく聖平から先、先日中断した縦走路後半の行程に出発した.日程を短縮するため、さわら島泊はやめ、午後の送迎バスを降りて
そのまま、つい先日下ったばかりで記憶の鮮明な登山道を聖平へ向けて一気に登ることにした.翌朝、またもや天気は期待できそうになかったが出発.ガスのかかった山頂に到達すると、このま
ま進むべきか迷ったあげく視界のない縦走路を進むことに決めた.山頂からコルに向けてガスの白一色の中をどんどん下っていく.先にある兎岳の登り直しはきつそうであったが、いざ歩いてみる
とそうでもなく非難小屋に達した.山頂部はそのすぐ先であった.
兎岳の下りに入るが、なにしろ天気が天気だけに、先行者も後続者もいない様子だ.道が誤っていないか心細い.まちがっていたら登りなおすしかないことを考えると、道筋のわからないまま、
ガスの中の下っていくのは結構精神的にこたえる.木々があるわけでないから展望さえあれば、ずっと先まで道が見えていることだろう.
小さなピークの登りに入る.小兎のあたりに達しているようで、ときどきガスが動くとやや視界が得られる.どうやら道はあっていたようで一安心した.水場への分岐があって、緊急の場合
はこのあたりでビバークするしかないであろう.しばらく進むと中盛丸山の登りに入った.2807メートルの結構高いピークで、北側から遠望すると大沢岳と並んで見えているピークだ.稜線のやや
西側を回るようにルートがあり、意外と山頂まで時間がかかる.
この山頂からは、また急な下りとなった.下りを走り終えれば、大沢岳とのコルに出た.ここに、百軒洞山の家への道が分岐しているのであるが、今日はまだ時間的な余裕があるので、
大沢岳まで行くことにした.先ほどまでの、精神的な負担からか、中盛丸山の登りあたりではかなり疲れはてた感じがしていたのであるが、いざ今夜の寝場所が確実に確保されたことがわかると、
前向きに考えられるようになるものである.そんなこともあって、登りはそれほど苦にならなかったけど、意外と長かった小屋への下りには参ってしまった.
天気が悪いこともあるが、この日宿泊者はたった3人、本当に静かな小屋だ.展望台があって、夕暮れ時ガスが上がると真正面に見える聖岳の姿が美しかった.翌日は、赤石岳に登り荒
川小屋を目指す.百軒平に着くと、そこは名の通りまっ平な場所で、その先の馬の背までほとんど登りがない.右手に折れるように山頂に向けての急なのぼりが始まり、山頂に着いた.昨日までがうそのように
今日は快晴、あとは荒川小屋への下りだけで、今日の行程はもう終わったような気楽さだ.
荒川小屋に着くとまだ時間が残っていた.最終日は二軒小屋ロッジを予約してあったので、明日はまだ使ったことのない万斧尾根ルートを下らなければならない.安心のため、今日はもう少し
進んでおくことにした.中岳非難小屋で泊まり、翌朝はゆっくり出発、東岳を経て千枚岳から万斧尾根をつたって二軒小屋に下った. |
2007年縦走 |
2007年、昨年天気が悪く、展望を楽しめなかった前半部を取り返すべく、畑薙からのルートを再び辿ることにした.今回も初日はウソッコ小屋に泊まり、翌日は順調に
聖平まで進みテント泊.これまで天候に見放されている聖岳も、登りはじめるとガスは切れ始め山頂では、ついに念願の展望を楽しむことができた.隣の赤石岳、それを取り巻いている赤石沢の深い谷、
遠くには仙丈ヶ岳も見えている.これで目的は達成、昨年も歩いている百軒洞への道を急ぐことになった.距離はいくらかあるとはいえ、天気がよければ縦走は本当に気楽なものである.昨年の苦労がう
そのようだ.逆に、暑さが堪え後半は疲れが出てきたが、百軒洞山の家に着く.
順調だった山旅も、いつまでも続くものではないようで、翌日は天候が悪化した.赤石岳の登りは強い風と吹き付ける雨にきつかった.山頂は白一色、非難小屋にまず逃げ込み、コーヒで体を温める.
稜線の静岡側には風はない.小赤石尾根ルートの分岐まで駆けおり、北沢に下るとのどかな山道一変した.さすがに3000メートル峰、油断はできないことを思い知らされた感じだ.
後は、さわら島にむけての勝手知った道筋を残すのみ、気楽な下りを楽しむ. |
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2007年 上河内岳から赤石岳縦走 |
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畑薙大吊橋 登山道はこの橋から始まる.歩行部は通常の吊橋より狭い20cmほどの板で、ところどころすれ違い用の待避所が設けられている. |
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上河内岳 聖岳の南に位置する2803mのピーク.茶臼岳側にある亀甲状土の草原より. |
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聖平をスタートして最初に向かえるピークが小聖岳で、標高2662m.この山の肩に出ると、いよいよ聖岳山頂部が目前に広がる.
左手には崩壊の激しい西沢源頭があり、その縁に沿って渡り廊下を進めばガレの急登が始まる. |
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最終部、ガレの急登は長い.ガレの途中で休憩しながら見下ろした小聖岳.右手が西沢の崩壊部の切れ込み. |
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山頂 |
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小聖の手前で左手にみえていた大きなピークは兎岳.縦走路は西北に向かい兎岳とのコルに向けて下っていった後、再びこのピークに
登り直さなくてはならない. |
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小兎:兎岳を下ったあと、また登りに転じ小さなピークを2つ越える。小兎という名がある. |
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