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1日目:両俣小屋へ |
初日は、どんなに進めても両俣小屋までしかいけない.実際足を使うのは2時間の林道歩きだけだから気楽だ.広河原に昼着くバスを使えば十分に間に合うから朝も余裕ある出発
だった.甲府駅から乗り降りなれた広河原行きのバスに乗る.
芦安から夜叉神峠に登っていく緑一面の急坂が私は大好きだ.この見慣れた風景に再び出会うと、これから南アルプス
に登ることがいよいよ実感として感じられるようになる.夜叉神峠から先は一般車の立ち入りができなくなった.ゲートをあけてバスが進むと、いつもの狭い長いトンネルに入った.いつも
のとおりだが、途中の対向車の待ち合わせがない.このトンネルを出てしばらくすると、白峰の展望が開けるのだが、今日はまったく見えていない.これでは天候は期待できないだろう.
まあそれもわかっていたことだからやむ終えない.
終点の広河原で下車.北沢峠行きの市営バスに乗り継ぎ野呂川出合まで乗る.ここでバスをおりたのは、またしても私ひとりきりであ
った.両俣小屋を使う登山者は少ない.林道に入り歩きはじめる.小仙丈沢にさしかかったあたりでさっそく小雨が降ってきた.明日以降の天候はいよいよ期待できなくなった.降ったり
やんだりのこんな調子が続くだろうか.
長丁場に備えて、今回はできるだけ荷物も軽量化したが、これも正解であった.体調も悪くないし、長く歩くことも問題なさそうだ.両俣小屋に着き、テントを張れば一日めの日程は
早々と終わりになってしまった. |
2日目:両俣小屋から熊ノ平小屋 |
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野呂川越. |
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三峰岳. |
三角点 |
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間ノ岳.国内第四位の標高をもつ. |
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今日は北荒川岳の天場まで進むことにしている.3000メートル近い北荒川岳でのテント泊、
標高が2000メートルほどしかない両俣でも、明け方けっこう寒くなっていた.天候が悪くなると、今回の装備ではやや不安だ.蝙蝠尾根の長い行程に備え、完全に夏山装備にして
極力荷物を軽減したのがいまさら悔やまれる.まだ晩夏フリースの一枚ももってくれば寒さは凌げただろう.寒さをこらえて一夜をすごし、疲れた体で雨中長い道のりはそうとうきつそうだ.
天候もよくない.熊ノ平小屋泊りに変更し、少し長くなるけど、明日はそこからスタートしたほうがよいかもしれない.計画を変更すべきか、早くも思い悩みながらも、とにかくスタート.
最終的な判断は、熊の平小屋についてからで良いだろう.小屋のすぐ先から始まる野呂川越への登りにとりつく.
急坂だけれど、出発して35分、難なく野呂川越へ着く.ここから三峰岳に向けて、高度差700mの登りを3時間かけて登ることになる.この区間がこの山行で最初の大仕事となるがであ
るが、間ノ岳に登ったときにもこの尾根を使っているからここを歩くのは2回目だ.コースの勝手もわかり不安は少ない.早めのペースで着々と稜線まで進んだ.
三峰岳は、間ノ岳の西にある2999メートルのピーク.岩が重なって高くなっているところが山頂で、仙塩尾根ルートはこの上を越えて南西の三国平へ下っていく.9時に山頂に着いた.ここで
ゆっくり休むことにした.南には、緑一面の中に赤屋根の熊ノ平小屋が建っているのが確認できる.
展望もあり間ノ岳もよく見えている.山頂を後に下っていくと農鳥岳からの巻き道が合流している三国平に出た.振り返る三峰岳にガスがかかり始めた.ハイマツ帯が終わり、カンバの樹林に入る.
熊ノ平小屋の赤屋根も近くなってきた.しばらく下ると崩壊している場所に出た.このあたりが井川越であろうか.その先にテント場が現れ、小屋の前に出た.
10時40分、まだ早く、これから半日時間
をつぶすのも惜しい気もしたが、今日はこの小屋に泊まることに決めた.早速ビールを飲みながら昼食を作る.ガスに隠れてはわずかに見えてと、前の西農鳥岳の観察くらいしかすることもない.
その間に、いよいよにわか雨が降ってきた.
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大井川の源となっている間ノ岳何面.後ろのピークは農鳥岳. |
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間ノ岳巻き道と農鳥小屋. |
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三国平. |
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静岡市営熊ノ平小屋.稜線より東側にあり、ここは静岡市だ. |
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熊ノ平小屋の向かいは西農鳥岳. |
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熊ノ平よりみた蝙蝠尾根. |
3日目:熊ノ平小屋から二軒小屋 |
いよいよ、山行の目的でもある、蝙蝠尾根を下る長丁場が待ち受けている.
蝙蝠尾根の下りに加えて、その分岐までの仙塩尾根4時間まで残しているから、やや不安な出発だ.二軒小屋には、連絡をとってもらってあるから、多少到着時刻が遅くてなっても問題ないだ
ろう.最後まで歩きつづけられるかが勝負である.順調にいって二軒小屋までは12時間、4時30分の出発でいこう.半袖で表に出てみたが、案外寒くなかった.陽が出るまで、雨合羽を羽織っ
ていれば寒さはどうにか凌げそうな感じだ.月は見えているものの、星はない.天気は期待しないでいこう. 表で湯を沸かし、暖かいスープを一杯のんで眠気を覚ましてから出発.早くも予定より
10分おくれて4時40分に小屋を出発する.時間の制約のことを考えると、前半でできるだけ稼ぎたいから幾分早足になる.ハイマツのピークがあり、ここから稜線上に出た.その次のピークを越
えると、道は樹林中に入り、木々の切れ間から蝙蝠尾根も見えている.
陽が昇ってきたから、次の展望の良いピークで、腰を降ろし朝食を食べることにした.まだ貫禄のない細い大井川をはさんで対岸には、農鳥岳から下ってくる沢に滝がかかっている.今歩いて来
た方角には赤屋根の熊ノ平小屋も見えているが、それより上はガスに包まれている.晴れていれば、三峰岳から間ノ岳の稜線が見えるはずだ.山が楽しいかどうかは天気次第、でも外れであっ
ても仕方がない.今日は二軒小屋につくことを考えて先に進むのみだ.
次に見えていたピークは巻いてしまった.これが地図にある新蛇抜山のようだ.左手のだいぶ下に大井川の河床が見えている.二軒小屋はあの流れの先、手前には蝙蝠尾根が待ち構えている.
枯れ木の多いところを越えると、先に一面緑に囲まれた大きなピークが見えてきた.真中にまっすぐな線が入っていてそこに歩道があるのが、ここからでもわかる.登りに入ると、カンバの木々の中
に入り、ルートは伊那側に折れていった.まだピークの上までは相当ありそうなので、一休みしてから残す登りに入った.さきほど見えていた線のあたりでは、予想どおり、ハイマツをかき分けて登る
ことになり、三角点の前に出た.
ここが北荒川岳だった.南側は崩壊してしまっていて深い谷底まできれ落ちている.崩壊部の淵を辿るように下っていくと、左手に小さな小屋が建つ場所に出た.地図にあるテント場の印は
ここのようだ.小屋の戸は打ち付けられていて中に入ることはできない.
ここから再び登りに転じ、小さなピークに達すると、いよいよ、塩見岳にむけての急登が始まった.ガスで白一面、塩見岳は一瞬たりとも見えないが、ガスが薄くなったとき、西側の深い谷の
向かいに一瞬だけ塩見小屋がみえた.崩壊地すぐ脇の急なガレの登りに入る.緊張を強いられながら登っていくと、いよいよ蝙蝠尾根の分岐に出た.風がビュービューふいていて、立ち止まると
どんどん体の熱を奪っていく.
心細い踏跡を表示にしたがって、蝙蝠尾根方向に歩きだすとすぐ細い岩尾根の上に出る.何回も繰り返される小さな岩の登り降り、下から強い風が吹くたびに体が舞い上げられる感じがするが、
岩はなんとも頼もしく感じる.風が吹き始めたら岩にしがみついて風の切れるのを待ち、早足で次の岩まで進む.ガスに覆われ視界はまったくなかったが、やや高所恐怖症である私には幸いだった
かもしれない.晴天だと切れ落ちている下も見えて、かえって恐くなっていたかもしれない.
岩尾根は終わり、少し広くなった場所に出た.ここが北俣岳のようだ.この先から、広々したガレの下りが続いた.河原の石のような薄ペらな礫が一面に広がっている.一定間隔でついている赤ペンキがルートどおりに
先導してくれる.ケルンも詰まれていてルートを見失うことはなさそうで、安心した.このあたり視野をさえぎるものはまったくなさそうだから、晴天ならさぞ展望が良いであろう.南側の谷の対岸には
谷越しに荒川三山なども見えることだろう.今降りてきた方角には、塩見岳がみえるはずである.ガスは時に薄くなり、塩見岳の一部が見えたりするが、ついに山頂部まで完全にきれることはなかっ
た. 小さなピークに向けてハイマツの中を登っていくと、カンバ林の中へ入った.ここから少しの間、歩道の両脇は木々に囲まれている.先ほどまでの風音がうそのように樹林中は静まりかえって
いた.低木林帯を終え、蝙蝠岳に向かって再び登りに転じる.いくつか小さなピークを追っていくと、蝙蝠岳と書かれた表示が現れた.標高2864メートル、蝙蝠尾根の主峰である.ガスが風で吹き飛ば
されると,礫の尾根がまだ下にもしばらく続いていて、その先は樹林帯になっているのが見通せる.
先ほどよりは天気も落ち着いてきたように感じられるから、待っていれば視界の得られることもあるかもしれない.少し待とうかと迷ったが、時間の制約もあるし、風はあいかわらず吹きつけてくるから、
動かずにいるどんどん寒くなってくる.標識の写真だけ撮ってそのまま下りつづけることにした.
いよいよ樹林帯に入る.小屋を出てからずいぶん長い時間が過ぎているように感じるが、時間はまだ11時10分であった.
ちょっと早いが、ここから樹林に入ってしまうから、昼食を食べてしまうことにした.風を背にして昼食を作る.気温もあがってきたようで、座っていても先ほどほど寒くはない.
道は稜線の北側に降りていくようについていて、シラビソ林の中に入る.所々荒れてはいるが、ルートは確かだ.稜線に平行して北側を進んでいる.やや平坦になり、細いシラビソ中の歩道を
追う.小さな登り降りが何回か繰り返される.やや疲れてきたようだ.次の目標である徳右衛門岳が待ち遠しい.
午後1時、徳右衛門岳に出た.予定通りのペースできているようだ.展望もなく三角点の標石を眺めるだけだが、現在地を知ることができるだけにほっとする.ここで小休止することにした.
出発すると、すぐ先に水場の分岐があった.今日は汗をかくこともほとんどなかったから、水もほとんど飲んでいない.熊ノ平で補充した水筒は、このまま二軒小屋まで持ちそうだ.水場はよらず
そのまま先を急ぐ.
この先、急坂が繰り返し現れて足がふらつくようになってきた.急坂が多くなってきたのは、尾根の末端に来ているからだ.先を急ぎたいが、疲れも出てきたので小休止が増える.目標になる
ものがなく、現時点でどこまで進んでいるかわからないのも、精神的な負担になってきた.かなり下ったから、もうそろそろ、地図にある中部電力の施設に出てよさそうな気がしてくるがな
かなか現れてくれない.
突如切り開かれた場所に出る.期待していた発電用の水槽施設.これで行程もいよいよ最終段階に入った.施設の鉄階段を降り、樹林中の登山道に入ると再び道は悪い.ロープ
が張ってあったり、両岸が切れていたりと気を抜けない下りがしばらく続き、急坂を下って林道に出た.
東俣の脇につけられた林道を辿ると、二軒小屋トンネルの前に出た.トンネルは通行できず、横の吊橋を渡るようになっている.右岸を歩き、ダムの上にかかる吊橋を渡って左岸に戻ると
下にゲートがある.この向かいに二軒小屋ロッヂの入口の表示があり、歩道を登っていくとシラカバの立つロッヂの庭に出た.
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日の出、安倍荒倉岳から農鳥岳方面. |
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北荒川岳.北側からはハイマツに覆われた幅の広いピークに見える. |
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北荒川岳南西は崩壊が激しい.稜線を伝う歩道のすぐ脇は南荒川の谷底に切れ落ちている. |
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蝙蝠尾根上部.北俣岳までは岩場、その下は幅広のガレが連続jする. |
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蝙蝠岳山頂.ガスがかかっていなければ、360度の見晴らしであろう. |
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ガレの末端.この先、蝙蝠尾根は樹林中の道となり東俣林道に下る. |
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シラビソ樹林中の道.このあたりは尾根細くなる. |
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徳右衛門岳山頂.2599mで三角点があるほか特に面白みはない. |
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東俣林道に出る.蝙蝠岳登山口の表示. |
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二軒小屋堰堤. |