住用村に向かう
朝大和村から名瀬にもどった私はバスターミナルで古仁屋行きを待った。バスが市街地を抜け名瀬トンネルを越
えると山間部を這う急勾配の道路となる。巨大な羊歯ヘゴが道路脇にも立ち、南の島奄美をたびし
ていることを再認識させられる。2つめの和瀬トンネルを越えると、住用村に入り、眼下に住用湾が現
れる。松の生えた美しい砂浜も崖の下のほうに見えている。城(ぐすく)という集落を過ぎると、静かな
水面を湛えた内海の脇に出た。風もなく波もたたない静止した水面には真っ青な空が写っていた。
長い三太郎トンネルを通りぬけると役場のある西仲間に出る。神屋タンギョの滝はここらあたりから登って
いくことになるが、まずは宿のある新村までいくことにした。
二件の旅館がある新村は、役勝川を遡ったかなり山
奥にあるが、瀬戸内町の古仁屋や宇検村の湯湾とのちょうど中継点といった場所であり、自然と宿も
存在するようになったのだろう。私はここの丸山旅館に予約をしてあった。観光目的の旅館とは全く異
なる趣のある良い宿である。話を聞けば、測量など仕事で訪れるお客さんや、やはり仕事だが島の研究
をしている大学関係者などが泊まっていくという。そしてたまに私のような変わり者の観光客に遭遇する
らしい。荷物を下ろし、お茶をよばれてから、バスを待ってさっそく西仲間にもどることにした。
タンギョの滝を探す
どこで降りようか地図を見ながら迷っているうちにバスは先ほどの役場の前に来てしまったから、ここで降りることにした。
地形図では、住用川に沿って発電所まで道路がついている。この道の入口をさがそうとするがよくわから
ない。暑い昼間中歩いている人もいないので、地図で探すしかなさそうで汗だくでうろうろしていたが、よく
よくみてみたら、私の地形図には三太郎トンネルが載っていないことに気づく。トンネルができて、道路の
位置が少し変わっているのである。探していた道は拡張工事によって今歩いている道路の下にあるようだ。
それならもう少し先まで歩けばいいことになる。長くはないが、バス停二つ分歩くことになった。
神屋というバス停の先に住用ダムに入る道であることを示した小さな標識が立っていた。10分ほど
歩くと、道は分岐している。右手のダムに向かうと思われる道を進むことにした。さらに10分ほど道路を登っていくと、激しい
水音が聞えてくる。もしやと思うが、すぐ橋が見え、そこを流れ落ちていく沢のものだ。橋のすぐ脇に滝もある
がそんなに大きいものではない。岩肌は、苔が生えみごとなまでに赤い色をしている。
このあたりから湿っぽい路面が続いた。蛇がでてきそうな雰囲気が続き、ハブのいる島だけに何とも不気味
である。まだ昼間だから大丈夫だろうからと自分に言い聞かせて、一歩一歩慎重に歩いていくと、すぐ前を蛇
が這っていくではないか。一瞬緊張したが、冷静になればリュウキュウアオヘビであることがわかる。そっと道
から消えるのを見送った。
尾根の南側に出て、明るく乾いた道路になるとずいぶん気が楽になった。木々が邪魔して見えないが、左の
沢の底の方から水音が聞えてくるようになった。そろそろあってもいいころだし、どこか切れ目がないかと探し
ながら歩くことになった。道が曲がり角に来ると、木立の切れ目から対岸に何段にも連なって落下していく滝
が見えた。これまでこの滝の姿を写真でみたことがないから、本当にこれがタンギョの滝が確信を持てなかったが、
これだけ大きな滝がいくつもあるとは思えないし大丈夫であろう。写真を撮り、食事をして今日の探索は打ち切った。
帰路、先ほどの分岐から左側の道路に入ってみた。発電所の管理用のもののようで、門の前で終わって
いた。左側を流れている河原に出て流れの上流を見ると、意外にも滝は発電所のすぐ奥にあるようだった。
滝最下部の水しぶきが岩陰に見えている。ここから沢を登っていけば、すぐに真下にいけそうに思えたが、
夕方も近いし、何も準備もしてこなかったからやめることにした。そしてもっとも躊躇させた理由は、ここでもハブ
であった。この時、もう少し調べて来るべきだったと後悔する。私の貧困な知識による推測は同じクサリヘビのマ
ムシは沢によくいるから、こんな沢を歩いていたらハブがいてもおかしくないというものである。この推測が正しか
ったのかどうかは今だに知らないのであるが。
1999年8月31日訪問
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