都民の森から三頭山 |
小河内神社からの登山道は奥多摩湖を背にしながら登っていく.落葉した樹間からは、常に静かな湖面を見るこ
とができる.この写真は中央峰から撮った. |
日ノ出山に始まり、御岳、大岳、御前山と続いている多摩川南岸の尾根は、
三頭山に至り南東からくる笹尾根と合わさる.標高、1528メートル、多摩川の支流である秋川は、山頂東側の斜面にその最初の一歩を刻み、急な谷間を流れ下っていく.
三山のひとつでとなりにある御前山との間には1147メートルの月夜見山があって、稜線は一段低くなっているから、奥多摩三山の中でもこの山だけは、どちらかというと、孤立して いる.特異な形状を個性とする大岳山、直線から構成された稜線と複雑に入り組んだ谷の御前山に比べるなら、残念なことに三頭山は丸みをおびたピークがポツポツ並んでいるような今ひ とつさえない山で、奥多摩の山々の頂から眺望した時、その山姿にわざわざ目がいくものではない. 奥多摩の山は冬登るのも良い.植林帯を越えてしまえば、ミズナラなどを中心にした落葉樹の森が現れ、冬には葉は散り去って視界がよくなる.晩秋に落ち葉を踏み鳴らしながら、笹だけは青く残って いる小道を登ることは、人も少なく静まりかえった山を満喫できて良い.11月も最後となる日曜日、三頭山に登ることにした.登路としては、奥多摩湖に浮かぶドラム缶橋に始まりイヨ山、ヌカザス山を経ていく北側の尾根を今回のルート に決めた.三頭山へは、秋川側から圧倒的多数は登っているだろう.都民の森から続くコースは整備が行き届き、都民の森入口までバスでいけるから 標高が1500メートルの山であってもハイキングコースの延長として簡単に登れてしまう.急な奥多摩側のルートは廃れてしまって、物好きがせいぜい下りに使うく らいである. 小河内神社バス停で降りた.湖岸に下りドラム缶橋を渡る.風の吹きぬける寒々とした湖面を想像して渡り始めたが、今日は風もなくおだやかであった. 上流側の麦山橋側や、水根山から降りてくる榧ノ木尾根の末端部は、一面見事なオレンジ色に染まっていた.奥多摩湖南岸沿いの車道を西に向けて歩くとすぐに登山道入口に着く. 登山道にはいると、はじめから急なのぼりが続く.朝食を食べずに出かけてきたから、それを口実に早速腰を降ろすことにした.樹間からは青白く静止した湖面が覗いている. 朝食を終え、再び歩き始めるが、しばらくの間は植林中を進む歩道で面白みはない. イヨ山979.1メートルは、標石もあって確認できるが、特に山頂といった感じはしない.ここには三頭山までが3.7キロメートルと書かれていた.登り下りを繰り返し、次のピーク ヌカザス山に着いた.地形図にはカタカナで記載されているのであるが、漢字では「糠指山」と書くようだ.1183メートルのピークで、ここから稜線の道が続き、吹く風に落ち葉がかさかさと 泣き始める.急な下りになって、降りていき折り返して急な登りに変わる.急傾斜の細い尾根を這い上がると上にツネ泣き峠があった. 次の入小沢の峰ですでに午後1時.今日は出発が遅すぎたようだ.山頂まではまだ1時間はかかりそうに思える.日没までに下りたいから、ペースを上げるべきか迷った. 予想したとおり、ちょうど2時に三頭山の山頂に着いた.さすがに山頂の人影はまばらであった.座って休んでいた人々も、帰路に急ぐ時間に入っているのだろう. ひとりまたひとりと出発していく.そんな中で、遅い昼食の支度にかかる. 南西には、逆行の富士山が見えていた.遠くの方で強い風音がしているのであるが、手前ではそれにあわせて落ち葉が小さく舞い上がるぐらいで、直接吹き付けることはない. 陽はぽかぽかあたっている、山頂はのどかな午後のひととき、だらだら座っていたいところであるが、日没までの残り時間も少ない.食事を終え、さっそく西原峠に向けて出発することにした. 三頭大滝の分岐をこえ、少し登ると避難小屋が建っていた.近年、奥多摩山域の避難小屋は建て直され立派なものになっているが、ここも他同様ログハウス調の大掛かりなもので あった.いったい何のためにここには避難小屋が造られているのであろう.ここから都民の森に下ればさほど距離はない.一泊する必要はないだろう.かつては山奥で、日帰りではこれない ような場所であったことの名残かもしれない. 小屋の先にある大沢山のピークも、富士山や丹沢の山々の眺望が良かった.背中の樹間からは、さきほど立っていたはずの三頭山のピークが望める. 2つめの大滝への分岐が現れる.そのまま直進し、西原峠側に進路をとると都民の森はここで終わり、道は細くなって急な下りに一転する.やがて、歩道は平坦になって、原の分岐、陽がか げり始めている.槙寄山の頂上に出たときは、三角点のある山頂は夕日に赤く染まっていた.山頂にはだれもいなく、葉のない木々に囲まれた頂上の広場は秋の山の物寂しさだ. 雪の積もった歩道を笹尾根に登りここで昼食を食べたのは、今年のはじめのことである.まるで、ほんの数日前にここを訪れたように思えるほど記憶には鮮明なのだがもう10ヶ月が経過して いる.秋の夕暮れを前にして、流れ去った時間の速さに感傷的な気持ちで一杯になった.時計を見ると5分が過ぎていた.まだまだ留まっていたい気がするけれど、知っている道とはいえ夜道 を下りたくはない. ピークのすぐ下にある西原峠も、立ち止まらずそのままやり過ごした.峠の指導標が人気のない中に立ち並んでいるのもまたさびしい.集落向けて一気におりていく.大平の分岐を過 ぎ、かろうじて明るさののこっているうちに民家の奥に出れてほっとした.車道もひたすら走り降りて、日の暮れた数馬のバス停で寒さをこらえながらバスの来るのを待った. |
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