大滝沢

 犬越路を越えて西丹沢に入った東海自然歩道、中川沿いを下り、大滝沢より山中の道となり、大滝峠上を経て畦ヶ丸に向かい、丹沢主稜に進む. この大滝沢の登りは、管理の行き届いた自然歩道、一面に広がる森、新緑や紅葉の季節に訪れるには、西丹沢でも抜群に優れたハイキングコースであるし、畦ヶ丸の下山路として もよく使われている.私が登って行ったときも下山者に何回か出会った.まだ朝のうちだから、山頂直下にある畦ヶ丸か沢の途中の一軒家の避難小屋で一泊した上の帰路であろう. こちらから登ってくる私は、風変わりな存在として下山者の目に写っていたかもしれない.
 今日はこの大滝沢にある2つの滝を訪れるために出かけてきたのである.この沢に大きな滝の有ることを知ったのは、西沢から登った畦ヶ丸の帰路である.二万五千分の一の地形図を片手に下ってきたのであるが、 ルートの脇を流れる大滝沢には2つの滝の印が記されていることに気づいた.下流の方は、歩道のすぐ脇にあって見ることができそうだったが、上流の方は歩道から少し離れていた.帰りのバスの時刻を気にしながらの下り であったから、そのときは結局下流の滝だけ立ち寄ることになった.
 これは大滝と呼ばれているらしい.下流部の水量の多い場所のあるから、岩肌も滑らかに研磨され、滝壺となっている大きな渕とあわせて、水景が美しい滝 である.高さは20mほどであろうか.今日は雨後でもあり、やや増水しているようだからいっそう期待が持てそうだ.
 2つめは上流に記載されているほうの滝で、あきらめて立ち寄らずにそのまま下ってしまったのだが、今回計画を立ててみてその時の判断は正しかったようだ.こちらの滝は地獄棚とよばれている. 歩道脇の沢筋を300mほど下ったところにこの滝があったから、難なく辿りつけると思っていたのだが、調べてみると、地形図に載っていない雨棚という50mもの高さの滝が途中にあって、沢筋を下ることは不 可能だった.
 しかし、ここは丹沢山塊であり、困難であっても、滝を登りたい人は必ずいるわけで、幸い沢床まで下る踏み跡はあるようだ.滝の写真を撮るだけなら、前に辿りつければ足りるのだから、踏み跡を降りてみればよい. それ自体はさほど困難なことではなさそうなので、再度訪問することにした.
鬼石沢に向かう
 大滝橋でバスを降り、大滝沢に沿った林道を歩いていく.発電所の取水用堰堤があり、この先で歩道は林道から離れ沢沿いを登っていくようになる. 堰堤が現れ、落石が散らばる沢沿いの細い道になると、左下の沢には大滝が見えているがこれは後回しにして進む.2度沢をわたり、木のはしごを登ると、2つ続いた堰堤がある. この上で大滝沢と支流のマスキ嵐沢とが合流点している.ルートはいったんマスキ嵐沢に入り、対岸にわたり、折り返すように尾根に登る.尾根の大滝沢側に出ると休息用のベンチ が設けられている.ここでは、大滝沢はもうかなり下を流れていて、堰堤が見えている.休息を終え出発すると、薄暗い林中の道が続く.やがて沢のせせらぎが聞こえてきて一軒家、 避難小屋から流れてくる鬼石沢の脇に出る.この鬼石沢に出会うところの左側にかなりはっきりした踏跡があって、これが大滝沢への下降路である.
地獄棚に降りる
 荷物をしっかり詰め直し、念のためロープも出した.下降路といっても地獄棚や、雨棚を登る沢登りのためのものである.注意していないと踏み跡はわかりにくいし、崖になって いることもあるから気はぬけない.踏み跡は最初はかなりはっきりしていて、脇には何かの境界を示す杭が打たれている.100mほどは沢に沿っていて、ほぼ平坦だ.少しだけ下り、再び登ったあたり で沢は見えなくなり道もここから不明瞭になる.このあたりの右手で鬼石沢は、高さ50メートルの雨棚となって落下しているはずであるが、歩道からはまったく見ることはできない.斜面を沢の方に少し 下てみたが一向に沢の見える気配はない.いきなり絶壁の上に出てしまうのも危険なので、雨棚の詮索はやめて進む.
 急斜面の下りに入る.踏跡を追うことは可能だ.木々の枝は地面すれすれまで広がっていて、ときに越えるのに困難なほどだった.右手に水は細いが高い滝がちょろちょろ落ちているのが見えた. もしやこれが雨棚かと一瞬考えたのだが、どうみても位置があっていない.雨棚の下流で鬼石沢に落下している枝沢のものである.踏跡の入口ではすぐとなりに流れていた沢の流れは、もうはるかに下 の方にある感じだ.沢底を流れている流水はもう50メートルの落差を落ちた後のものであろう.
 傾斜はさらに急になってきたから、谷底に近づいたのだろう.少し気を抜くといきなり足元が崩れていく.気はあせるが、慎重な行動が必要だ.前方に流れが見え、右の対岸に、美しい滝が見えて いる.高さからこれが地獄棚であることは確かだった.荷物を下ろし、身軽になって沢を渡り、滝の前に立った.
 滝のすぐ右手にあるのが大滝沢本流の鬼石沢である.細い流れの両岸は高く、深く切れ落ちた樋の底に流れがあり、低い滝を懸けている.この流れを追っていけば雨棚があるはずだ.この小滝の上 から上流を確認してみようと、荷物の元にもどり、沢登り用のシューズに履き替えた.前に見えている滝を登ろうかと考えたが、やめておくことにした.今日は地獄棚だけであきらめることにした. 地獄棚の前に戻って写真を撮る.前回のモチコシ沢と異なり、ここは滝の前に充分なスペース があったから、三脚を立てて写真を撮ることができた.滝を見上げながら昼食を作る.新緑の中の昼食は本当に気持ちのいいものだ.あたりにはだれもいない.私が滝見遊山を続けている理由ともなっている 滝の前の昼食は山で最も楽しいひとときである.
地獄棚 何時、だれがこのような名前をつけたのだろうか.一度聞けば、忘れられないし、好奇心を刺激するネーミングだ.実際、見てみれば高さも十分あり美しい滝である.道はなく、歩道脇にある 西沢の本棚のようなわけにはいかないが、踏み跡はあって、やや困難を覚悟すれば訪れることは可能だ.
地獄棚
地獄棚沢と鬼石沢の合流点中央に見える水流が北からくる 本流鬼石沢のもので、左手より支流の地獄棚が落下している.沢のつくりとしては、地獄棚とこの小滝は連続していて鬼石沢がそこに流れ込んでいる感じだ.
涸棚 鬼石沢の小滝 小滝
写真左 (涸棚) 歩道から踏後を辿り下っていくと、対岸の垂壁に一条に落下する細い滝が目に入ってくる. これが、涸棚で高さは80メートルもある.深く茂った木々の葉に邪魔されて全貌は見えなかったが水音は対岸のここでも聞くことができる.
写真中:地獄棚右下にある小滝を登り、右手の鬼石沢の上流を除くと小さな滝が見える.この滝の上に涸棚が落ちているはずだ. さらに先、右に折れた所に高さ50メートルの雨棚があるのだが、この小滝を登るのが躊躇され今回は断念.
写真右:地獄棚からほんのわずか下ったところにある小滝.
大滝を観賞する
 地獄棚が優先されて、後まわしとなってしまったが、大滝に立ち寄った.歩道をもどり、行きにもみた崖下の大滝を見る. さらに堰堤まで下って沢底におりた.堰堤を作ったためだろうか.このあたりは平坦な河原となってしまっている.河原を上流に歩いていくと大滝の前に出れる. 滝壺は広い渕となっていて、落下するというより、そこに水が滑りんでいるような感じである.豊富な水量といい、滑らかな岩肌といい品のある良い滝であるのだが、 今日は、直前に地獄棚をみているだけに、少し色あせて感じた.
 もうバス停までは近い.写真を撮り終え一気にバス停まで下り、2つの滝訪問を終えた.
大滝沢大滝 大滝沢の下流、東海歩道脇にある大滝.高さ20mくらいか.すぐ上にはもう一段あるのだが ここからは見ることができない.


訪問のために
<アプローチ> 小田急、新松田駅前から富士急湘南バス、西丹沢自然教室行きに乗り、大滝橋で下車する.
<所用時間> バス 60分.歩道から沢に下る踏跡の分岐まで 60分.地獄棚まで 30分.
<地形図> map中川 map
LINKS
富士急湘南バス0465-84-0093
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