国道140号線と秩父鉄道が荒川の左岸に寄り添うようになり、山峡を南に折れていくと、川下りで有名な長瀞に
達する.国道も鉄道も流れを横切り、右岸を走るようになる.秩父市街を抜けると、瀬は清流のおもむきに変わり、流れは、盆地の底をさらに深く
堀刻んだ下にある.
秩父盆地より遡る上流は距離にして残すところ1/4.西に折れていくと、そこは荒川村.国道を走りぬける車の音だけが、両岸を山に囲まれた
狭い河岸に家々の点在する静かな山村に響き渡っていく.ここで国道は再び荒川の流れを渡ることになる.
荒川橋、車で渡ったなら、深い谷も、それが鋼製のアーチ橋であることさえ気づかずに通りすぎてしまうことだろう.車線ごとに橋が分かれてい
るのは新橋を併設することで交通量の増大に対処したからだ.下流側(下り車線)が、昭和4年の完成以来使いつづけられている古い橋である.
河床からこの路面までは50メートルを超える高さがある.橋脚のいらないアーチ橋が選ばれたのはそのためであろうか.欄干から恐る恐る深
い谷を見下ろしてみると、岩の露出した崖に挟まれた狭い河床を瀬音をたてている流れを見ることができる.
橋の下に降り、見上げると、空を割るような構造物がずいぶん高いところにある.昭和の初頭、こんな静かな山村で、大掛かりな橋の工事が行われて
いたことに驚かされるが、それは自動車が使われはじめ急速に道路網が整備されていたころである.そしてこの流れの行末では、土木技術を結集した
放水路工事もいよいよその終わりに近づいていたころのことである.
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