埼玉県西部、入間川に沿った2600人が住む静かな山村が名栗村である.
この村に通じるバスは西武飯能駅から国際興行が運行している.私は、JR八高線
東飯能駅からこのバスに乗ることにした.飯能の町を外れ、川を遡ること40分、そ
の名も名栗川橋というバス停で降りる.停留所の先を左に折れると、私はすでに
この橋の上にいた.
子供のころ、こんな欄干をもつ橋をよく渡っていたことを思い出す.もう、
私の故郷では、そんな橋もみんな架け替えられてしまった.華奢な欄干にはさまれた
道を歩いていく.このあたりまでくれば入間川の川幅はいくらもない.川むこうに行ってくる
という大げさなものではなく、隣家に行くために一日何度も往復するような橋なのだ.
橋を渡り終えて、振り返ると川の上をまたぐ橋全体が目に入る.今渡ってき
たのは確かにちょっと古臭いコンクリートのアーチ橋であったのであり、それは確かに
今日ここまで私が出かけてきた目的のものであることを確認する.
大正13年に造られた埼玉県最古の鉄筋コンクリートのアーチ橋、県の有
形文化財に指定されているという.その後作られたコンクリート橋にみられるような、
施工時の型枠の跡がそのまま残るようなものではなく、上品に仕上げてある.
太く頑丈なアーチが川を渡し、上に並ぶかぼそいリブが往来を支えているのだ.
橋の先には名栗鉱泉大松閣がある。鉱泉といえば、ひなびた一軒宿を思い
浮かべるのであるが、ここは近年建て替えられた立派な5階建て.わざわざ
立ち寄る気にもなれないので、そのままバス停にもどり飯能駅行きのバスを
待つことにした. |