鋸尾根から御前山 |
御前山の三角点.
山頂の標高は1405メートル、この高さは大岳山や川苔山を上まわっている. その美しい形状が印象的なこの山は、眺望を苦手とし、登ってもあまり報われない山という印象が強い. 今回登りなおしてみて、眺望がまったくないというのは記憶違いで、南には丹沢あたりの山並が見えていることに 気づいた. |
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御前山は、奥多摩を代表する山である.大岳山と三頭山を加えて、奥多摩三山のひとつとして数えられることもある.
もし、外見についていうのならそれらの中で、この山がきわだっているだろう.
大岳山は独特の形状ゆえによく目立つのであるが、決して美しいとは思えない. 三頭山もどこが山頂なのかわからないような丸みのある山体で、二等辺三角形の山姿をもつこの山にはまったくおよばない感じだ. 全体は安定した姿である一方、そのいたるところに、深い谷筋が複雑にこの山を侵食している.これらの複雑な構造によって 、この山の見栄えはますますよくなっているのである. 御前山は、奥多摩のほかの山々からよく見えている.多摩川対岸の石尾根あたりでは当然かもしれないが、もっと離れた雲取山や、石尾根を間に挟んだ 北側の、ヨコスズ尾根からも見えていた.奥多摩で山に登れば、だれもがこの山を目にしている感じだ.そして、ちょうど駅から近いことから、町のありかを示してくれて もいるのである. もっと容易で、かつ美しい眺めを提供してくれるのは、小河内ダムであろう.本当のところは、尾根の末端が見下ろせるような高さが欲しくて、 ちょうど北側にある水根集落からの見えがもっとも良いと私は思っている.細い尾根と 惣岳谷の深い切れ込みがこの山のポイントである.水根はちょうどその真正面になる. 三山以外まで比べる対象を広げてみても、これ以上の外観をもつものは、この山域にはないように思う.それほど魅力的な山であるのだが、登るのはいつもためら うことになる. まずは、歩道は植林中を歩くことが多い.人々の生活と結びついて 存在してきた山ゆえに、仕方がないだろう.しかし植林だけというわけではない.秋の日に遠望すると、この山の山頂部が赤くなっていて驚いた. 次は山頂からの眺望の悪さである.この山の山頂は広々としていて平凡だ.その上、周りが木々に取り囲まれているから、枝の間を探すのがやっとである. 私の場合、山に登る理由は、山頂で食事をしながら眺めを楽しむことにあるので、この点は重要な選択基準となっている. そして、いつも先延ばしになってしまう. 登るとなると地味な山ゆえに、かたくりの咲く時期はにぎわうというが普段はさほど込み合っている感じはしない.それでも休日、境橋ではかならずといっていい ほど降りていく人がいるし、奥多摩湖のバス停でも帰路を待つ人に出会うのであるから、それなりに登られているのであろう. 小河内ダムの堰堤の上から始まる大ブナ尾根は、急坂ゆえに、通常は下山路としてつかわれているようだ.ダムの付け根から見上げると、 そのルートが手にとるようにわかる. したがって、通常は、北に流れ落ちている栃寄沢にそって登られている.ほかに、秋川からの湯久保尾根を伝うコースもあって 避難小屋の先で合流している.ここには、第3のルートも加わって十字路になっている.それは、奥多摩駅の前から大岳山に続く鋸尾根から分岐してくるものである. 奥多摩から秋川の神戸につけられている、林道が越えていくのが、鋸尾根と御前山との鞍部大ダワ、ここから登っていく歩道である. 鋸山まで尾根を辿る部分は余分にかかるのであるから、境橋から入るのに比べて倍ほどの距離となる.したがって、あまり効率的な登り方ではないの であるが、東側の尾根から登り、西側の大ブナ尾根を下れば、この山をぐるっと一周した感じになって一日かけて登るにはちょうど手ごろだ. 先日、ヨーロッパを旅行し帰国した週末、ふと奥多摩の山に登ってみたくなり、計画もないまま、この御前山にふらっと出かけることになった. せっかくなら、前に登ったことのある栃寄のコースを辿ることもないので、前々から考えていた鋸尾根から入ってみることにした. 奥多摩駅から、大岳山まで続くこの尾根は、駅からも見えている尾根末端の小さな突起、愛宕山をスタートに、鋸山まで鋸の歯を上下する. 駅を歩きだし、氷川交差点を渡り登山道に入る.海沢方面の横道に出て、さらに進むと急な石段に出る.愛宕山には神社があるから、その参道のようだ. 石段の上は愛宕山の赤い塔.前は広くなっていて、氷川の鳥瞰を楽しめる場所である.駅から手前に目をやるとさきほどわたった交差点、その脇の赤屋根が氷川神社で 境内には氷川の3本杉が立っている. この塔のすぐ上が神社で南を向いて立てられている.細い山道を降りると、登計坂の車道に出る.車道を50メートルほど進むと、歩道の入口があって、植林中の登 りが始まる.瘤の続く部分に入り、梯子を上ると、地図には天聖神社と書かれている祠の前に出た.ここからは石尾根の眺めが良い.いったん下りになり、鉄梯子を登ったとこ ろが2つめのピーク、さらに次の鉄梯子をのぼると、今度は植林中ののぼりが続く.鋸山1.5kmの表示があって、右手の植林が邪魔するが、御前山も見えている. 北側に松の木の立っている三角点の場所に出た.地形図で1046.7mとあるところで、ここからもまだ登りが続く.鋸山350メートルの表示で中間点まではもう少し のようだ.下りに転じ、すぐに大ダワ、御前山の道がわかれた.鋸山を巻きながら急傾斜の歩道は下っていき、山頂から真西に下ってきた道と合流し、鋸林道に出る. 林道から先も西にまっすぐ登っていく.小さなピークにでるが、まだ休憩には早いから次の鞘口山を待つことにして進む.今朝は出発が遅かったから、この鞘口山の頂上 で早くも昼食の時間になってしまった.ベンチもあって腰掛けて昼食を作ることにした. 食事を終え、歩き始める.ここから進路は南に向かっている.下りぎみの歩道、右手の谷の先には山頂あたりが見えているが、そのピークが御前山なのかはよくわから なかった.西に進路は変わり、登りにさしかかかると樹林の隙間からは大岳山も見える.その先クロノヲ山と書かれた所を越えると、秋川側の沢の水音が聞こえてきた. 細い陽樹に囲まれた平坦な道をしばらく進むと、人声がどこからとなく聞こえ出した.栃寄からの登山道が近づいてきたようだ.まもなく、栃寄と湯久保の分岐点 に出た. ここからは、山頂は急坂を一気に登る.けっこう急なのだが、いつになくすらすらと登っていけた.数日前まで、スイスでは毎日3000以上メートル以上のところで 遊んでいたから少しはヘモグロビンが増加しているのかもしれないなどと、後で思ったほど、息も切れずに登れたのである. |
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時間が遅かったこともあるのだろうが、山頂にはポツポツと人がいるのみであった.
目の高さは木々の枝に邪魔されて視界が良くないが、南側の一部だけは開けていていて、いくらかの眺望が可能だった.逆行気味の光に照らされ何筋も尾根が重なる.
最も後ろで高いピーク群が丹沢のものだ. その左端には富士のような美しい形状をした大山、そこから右に追っていくと、特徴的な3つのコブのならんでいる三峰がある.宮ケ瀬に始まり高畑山、この三峰
を経由して丹沢山に続いているのだから、その先にあるなだらかなピークが丹沢山であろう.
そこから小さなピークを挟んだ先に丹沢の最高峰である蛭ケ岳.次の小さな峰々は確信がもてないが、場所から推定すると臼ケ岳や、手前側にある尾根で東海 自然歩道の通っている袖平の頭あたりが重なっているのであろうか.高い檜洞丸と、そこから少し離れた場所の幅広の山が大室山であろうか. 昼食を終え、大ブナ尾根側に歩き始める.少し行くと、南側に展望台があって、上部が薄白くなった富士山が見えていた. 昨日、初冠雪のニュースを読んだばかりだ.続いて北側の展望のある所に出た.ここからは雲取山や鷹ノ巣山が望めた. 次の惣岳山の山頂は、木々が切られてしまっている中に標識が立つのみで特に面白さはない.小河内峠へ向かう道が西南に分かれていく. 奥多摩湖方面のルートは切り拓かれた斜面の下から始まる細々とした道であった. この先は急坂の連続となった.見えてくる奥多摩湖の湖面は、昨日の降雨ゆえ、茶色が かっていた.急坂は続き、檜の植林に出る.少し登りぎみになると、切り開かれた場所には、金網で囲まれた監視カメラが建っていた.湖面がよく見渡せる.ちょうど湖面に 出っ張った熱海のあたりが見え、湖の奥には深山橋が半分だけ見えている. 下り始めると、右手には堰堤が見えてきた.もう車の音も響いてくるところにきている.そろそろ終わりかと思ったら、一旦平らになる. 下から見えている、尾根の起伏を今歩いているのがわかる.そして最後の切れ端に出たのであろう、急坂がはじまった.予想どおり、 まもなく広場の分岐が出て降りていくと堰堤に出た. |
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2001年9月に歩く. |
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