青梅街道を渡すコンクリートアーチ橋、氷川大橋の上に立ち、深い川底を見下ろし、奥多摩町の山深さを
再度確認させられたことがあった.
休日、登山客で賑わうJR奥多摩駅、東京駅までうまく乗り継げれば2時間ほどしかかからない.
そんな時間感覚も手伝ってか、私の頭の中では山間いう印象が薄くなりつつあったのであるが、この橋に立
てば、四方は山々の急斜面に囲まれ、わずかな平地に家々寄り添う、山間の僻村であった氷川の姿を垣間見
れたような気がした.
氷川大橋の元で、雲取山に発する 日原川は、遠く山梨県の笠取山水干に発する多摩川に流れ込んでいる.2つの流れを分けている東西に延びる 長い尾根、石尾根の突端が終に川底に達するのがこの氷川である.
関東平野から登ってきているとはいえ、奥多摩駅は、まだ海抜400mに達してはいない.都の最高地点である
雲取山の山頂2018mまでまだ1600メートルを残している.この石尾根を伝って雲取山に達するルートは、
次々に枝尾根からの登山道を合わせていき、9時間ほどで雲取山に到達するから、早朝出発、一日精一杯登って
ちょうどの時間だ.
長丁場ゆえに、登り終えればその達成感も加わり、都の最高峰を制覇した喜びが感じられるかもしれない.
最高峰という言葉にこだわるのなら、もっとも比高の大きいこのルートを選ぶべきかもしれない.ただ、鷹ノ巣
山あたりまでは、このルートをあえて伝う魅力には乏しい.首都という木材の大消費地に隣接していた奥多摩と
いう地は、林業も人々の暮らしを支えてきた重要な産業であるから、植林は稜線にまで達していて、薄暗い植林
の中を縫う歩道を登ることになる.
植林の中を延々と登らなければならないことに抵抗を感じる私は、このルートをあえて選ぶ気にはならな
かった.今回は、石尾根の主要ピークである鷹ノ巣山へ北東の稲村岩尾根からアプローチすることに決めた.
この尾根の日原川に達する末端には稲村岩という円錐形の見事な石灰岩搭が立ち、それゆえにこの尾根の名がある.
この尾根を登った経験がない私にとって、急坂続きの下りに好まれて使われているルートは、登り始めて
早速疲弊してしまわないか気がかりなものだったが、10月後半ともなれば、少しくらいの急登であっても汗だ
くになって登ることもないだろうし、この時期、日原から見あげるこの尾根は、まだらに色づき、落葉樹の下を
登っていくことが予想できるから、多少勾配のきつさがあっても、気はまぎれるはずである.
そして、この前半部を少しがんばって終えれば、鷹ノ巣山から先の縦走路は、ほとんど勾配もなく、のんび
り歩けば時間にして3時間、小雲取山手前にある雲取奥多摩小屋に難なく着くはずだ.昼までに鷹ノ巣山に登り、
展望の良い山頂でゆっくり昼食を取ってから、歩き出せば日没までには十分辿りつく計算になる.
ここで一泊、翌日山頂までは比高200mを残すのみで1時間を要するだけだ.帰路は小雲取山から野陣尾根を
日原川に下る富田新道を使い、出発点東日原バス停に戻ることにした.
この富田新道も急勾配であるけれども、ここはブナやミズナラの林の中の利用者も少ない静かな歩道で、時間的
には短くなるから帰路としては良いルートに思える.ただ、日原川林道に出てからの車道歩きは長いが、それでも東日
原バス停まで戻っても4時間ほどの日程で、早朝にテントを撤収して出発しなくてもよい.
この計画でいけば、往路早朝の電車にあわせて家を出ていかなければならない必要もないし、帰路も昼過ぎのバ
スで戻れそうだから、週末1泊の山行予定としてはちょうど良い.「奥多摩の山は気楽に登るべき」という私の基準は
今回も適用され、出来栄えのよいプランが完成した.