大菩薩嶺は、大菩薩峠の北に位置するピークでこの一帯の最高峰.
山頂は樹林中にあるが、 介山荘からここへ向けての大部分は、笹に覆われた見通しのよい稜線伝いであり、開放的で緩やかな登りは心地よい.
写真は、親不知の頭から見える稜線の全貌である.
大菩薩嶺は、大菩薩峠の北に位置するピークでこの一帯の最高峰.
山頂は樹林中にあるが、 介山荘からここへ向けての大部分は、笹に覆われた見通しのよい稜線伝いであり、開放的で緩やかな登りは心地よい.
写真は、親不知の頭から見える稜線の全貌である.
富士の眺望は大菩薩の魅力の一つであるだろう. 上日川峠から登る歩道は、峠に着くまで富士のある方角の展望は望めないが、途中三界庵に立ち寄れば富士山と対座できる.
「大菩薩峠は江戸を西に距る三十里」は中里介山作「大菩薩峠」の書き出し、この峠路によって関東平野と甲府盆地を結ぶ 青梅街道は、海抜2000メートルに達する高い分水嶺を超えていた。
峠より西に流れ出した水は笛吹川に集まり、甲府盆地では西からくる釜無川と合わさって富士川となって南下して駿 河湾に注ぐ。 山梨県は、この富士川流域を大部分としているが、東の県境線は、多摩川水系を下り奥多摩湖を横切ってひかれていて、源流部の 小菅村、丹波山村の2村も含まれている。
現在の青梅街道、国道411号線は奥多摩湖北岸を走って、丹波村中心部を通って多摩川沿いを柳沢峠まで遡っていく。 この峠からは南西の方角にある甲府盆地に向け南に折れている。この今使われているルートが開削されたのは明冶11年のことで、 それまでは、多摩川の支流である小菅川の源流部に位置する大菩薩峠を超えるルートであった。
その場所を改めて地図上で確認すれ ば、奥多摩あたりから甲府盆地にむけて引いた直線上に、この峠はあって最短コースゆえに、この道筋が街道となっていったのはう なずけることだ。
小菅や丹波山村に暮らす人々は、かつてこの峠を介し塩山側から物資を運びこんでいたという。平野育ちの私は、平坦な川筋を 人々は往来し、物資を運ぶルートとして使える川が生活圏の軸であると子供のころから考えてきたから、それは、奥地の山村 であっても川下から順に登っていくのが当然のことと思っていたのであるが、急峻な谷筋に道路を開削し輸送手段として車が使われ るようになった以降のことであり、歩くことが唯一の手段であった山間部では、高い峠を越えた行き来も日常的なものであったよう だ。
街道や生活道としての役割を終えた大菩薩峠、今はハイキングコースとして、特に新緑や紅葉の季節ハイカーでにぎわう。 そのアプローチとして利用されてきたのが、塩山駅から出ているバスである。初めて私が塩山駅に下りることになったのは、友人たち と西沢渓谷を訪問した大学時代のことだ。
現在のように駅前が整備される前のことで、バス乗場は古い建物の中にあって、駅を降りバスターミナルを探して歩いていくと、 道路まではみ出し列を作っている人だかりがあって、それは私達の行き先とは異なる、大菩薩峠登山口へ向かう人のものだった。
大菩薩峠
このバス停、それほど大きくはない建物の中にあったはずだから、このときの混み具合の記憶は誇張されているのかもしれない 。だが、時代に取り残されたようにさえ感じた古いバスターミナルと、なんとも重々しい名をもつ峠へ向かおうとする行楽客の集 団の姿は、鮮烈に私の記憶に刻まれることになった。
この記憶に残っていたこの人ごみを避けたいためか、この峠に出かけることになったのは、ずいぶん時間の経った後の ことであり、それも冬のことだった。訪問者が多そうなことは、まだまったく知らないルート、それも雪道を登る私たちにとって、 安心感を与えてくれるものだった。気軽にいける雪山としてこの峠のことが思い浮かび、出かけていくことにしたのだ。
登ってみれば、それは予想に反して訪問者がいなかったのは言うまでもない。冬の大菩薩峠にわざわざ登る物好きは多くない。 初めて登る路ゆえに、目的の峠のありかもわからないまま日が暮れてしまってはと心細くなって、さっさと下山してしまった。 後に再訪してみれば、その場所はもう峠のすぐ下であったのである。
塩山側の登山道は、裂石という山間の集落のバス停が始まりであり、ここから林道が長兵衛山荘が建っている上日川峠へ向かっ て登っていく。裂石からこの山荘まで沢に沿うように一直線に登っていくのが、かつての道筋を辿る登山道で、登山道よりずいぶ ん大回りをしている林道をわざわざ歩く人はいないことだろう。だが、私はその長さを実際に体験したこともある。
私は雪に埋もれたこの林道をカンジキをつけて下ったこともある。冬期は閉鎖され、だれも入らない林道ではあるが、カンジキ を履いているから積雪は心配ないし、歩道より緩い車道の方が下りでは容易だろうと浅はかにも歩きはじめてしまったのである。 日暮れが早い冬の日、その長さに気づき後悔し、たった一人である心細さに耐えきれなくなってきたころ、薄暗いバス停に辿りつ くことができた。
またスキーを抱えて登ったこともあって、下山はこの車道を一気に滑って下ってしまおうと考えたのである。しかし、その時、 雪はそれほど厚くはなく、そのまま下っていくのは容易でないことに早々気づく。地形図で林道が登山道に接している場所をみつ け、歩道に降りスキー板は担いで下ることになった。
何かと私の記憶に残っているのは、この大菩薩峠が気軽に出かけれる場所に存在していて、実際出かけていった回数が多いから だろう。ちょっと気を抜いて出かけたいが、奥多摩の山ではものたりない感じがするとき、私の頭にまず思い浮かぶのは、この大菩 薩峠だ。そして訪問のたび、何か私の心を満たしてくれるのも大菩薩峠である。
塩山駅からバスが運行されている裂石より上日川峠へ至る登山道は、かつて大菩薩峠へのハイキングで唯一ともいえるほど頻繁に 利用されてきたルートだ。海抜850メートルほどの裂石集落から車道を東に進み、芦倉沢を渡って尾根沿いに南東の上日川峠に至る 歩道は2時間ほどを要し、残りの大菩薩峠まで登高と合わせて日帰りハイキングコースとなっていた。
裂石から上日川峠には林道が通じ、甲斐大和側からも大菩薩山域西側に車道が走っているので、これらを使って自家用車やタクシー でアプローチできるようになり、近年は甲斐大和駅からバスも運行されるようになった。よって、現在はこれらが閉鎖される冬季以外に は、登山者もこの上日川峠を起点とすることが多い。
上日川峠にはロッジ長兵衛が建ち、その周りには駐車場が整備されていて行楽客でにぎわっている。ここの海抜は1600メートル ほどあり、目指す大菩薩峠まで登高は300メートルほどを残すに過ぎない。自家用車は入れないが、車道同様の緩い勾配の道を約1時 間歩けば峠に達することができ、ほとんど労を費やさない快適なハイクになるが、山歩きを目的とした場合、この区間の往復だけでは物 足りないので大菩薩嶺まで登るのが普通だろう。
ロッジ長兵衛の横から始まる大菩薩峠へ向かうルートは、地形図でも車道になっている。カラマツ林の中、舗装された路面は 緩やかな傾斜で上がっていき、まもなく福ちゃん荘に出る。
この福ちゃん荘からは、北東に進む唐松尾根ルートが分岐し、こちらは大菩薩嶺の 手前にある雷岩につながっているので、この山域の最高点である大菩薩嶺に直接登ることができる。 しかし一般には、まず大菩薩峠に向かい、そこから稜線伝いのルートを登りにとり、下りをこのカラマツ尾根コースとする周回コー スで登山日程を組む。
福ちゃん荘から東に向かうとすぐ上に富士見山荘があり、一般向けではないが、ここからも富士見新道という稜線に向けて登る 登山ルートが別れていく。
車道がやや下りになって勝緑荘の前に出ると、ここで道幅が狭まり、地形図でもこのあたりから道幅が狭くなっているが、峠の 介山荘までほぼ車道幅の道が続いている。実際、介山荘では管理のために車を入れているようで路面は整備されている。
樹林の中の道筋を登り詰めると、展望があるようになり左上に笹原が広がっている場所に着く。峠とその先に続く稜線が見渡せ 、介山荘の間を通って峠に出る。
下山:
大菩薩峠 25分 富士見山荘 15分 上日川峠
上日川峠には、土曜、日曜、祝日(観光シーズンの頻客期は平日運行もある)に限って、甲斐大和駅から栄和交通によって バスが運行されている。
裂石、大菩薩峠入口へは塩山駅よりバスが運行されている。 交通機関
大菩薩峠直下から、親不知の頭へ向けての笹原。
歩道
自然林の中を進む車道部分
上日川峠に建つロッジ長兵衛
雷岩と福ちゃん荘をつなぐのがカラマツ尾根ルートで、下半部は名の示すとおり、 カラマツ林中の路である。大菩薩嶺のすぐ南側、樹林帯から笹の稜線に出るところが雷岩で、 通常、介山荘側から大菩薩嶺まで登り、その下山路としてこのルートが使われることが多い 。
雷岩は展望がよく、下に上日川峠あたりの小屋の屋根が確認できる。手前にあるのが 福ちゃん荘で、これからそこにむけて下っていくことになる。
ルートに入ると、まず左手下に見えているカラマツに覆われたピークの場所へ向けて下 る。この部分は急な下りであるが、10分ほどで左に折れていくようにカラマツの林中に入 り、緩い傾斜の歩道を進むようになる。
意外とカラマツ中を辿る部分は長いが、車道幅の歩道に出てまもなく、福ちゃん山荘のと ころに出て、このルートは終わる。
上日川峠へは、舗装された車道を降りていくと15分ほどで着く。
雷岩 10分 林中に入る 25分 福ちゃん山荘 15分 上日川峠
上日川峠には、土曜、日曜、祝日(観光シーズンの頻客期は平日運行もある)に限って、甲斐大和駅から栄和交通によって バスが運行されている。また、さらに裂石まで下ればバスが塩山駅まで運行されている。
カラマツ尾根の通るピーク。
カラマツの中を進む歩道。
訪問者の多くが使う上日川峠からの歩道が稜線に達し、小菅、丹波側のルートが合わさっている場所が、大菩薩峠と 呼ばれているところで、介山荘が建っている。ここから山頂である大菩薩嶺へ向けて、稜線西面は笹に覆われ視界が抜群に良い。
峠に腰を下ろすと、すぐ北に親不知の頭手前の露岩が見えている。見あげるそこへの登りは、先に進むことがためらわさせ るかもしれないが、ここ部分を登ってしまえば、後は嶺の手前まで緩やかな登りで、展望の良さと相まって爽快な山歩きであ る。その開放感こそ、この大菩薩峠が人気を得えている最大のものであるかもしれない。
峠に建つ介山荘の前から東の奥多摩方面を眺望する。
直下の集落は小菅で、その左手に延びた尾根の先に大寺山があり、白い建物が建つ。
その先には奥多摩湖の湖面も見え、 石尾根から派生する赤指尾根がそこへむけて下っている。
峠をスタートし、見えていた岩の間を登ると親不知の頭に達する。ここは甲州盆地側の眺望がよく、またこれから登る稜線 が一望できる場所であるので一休みしたい。すぐ向かいに山頂側から下ってきた稜線が終端する妙見の頭があり、その手前にあ る鞍部が賽の河原、そこへむけて下ると休息小屋が建っている。
もともと峠路が越えていたのは、このあたりであったとのことであり、妙見の頭から東に延びた尾根の南側からこの鞍部へ 登っていたようだ。
ここから大菩薩嶺までは、稜線のすぐ西側に沿って登っていき、海抜2000メートル地点の表示が立つ神戸岩に着 く。介山荘の建っている場所が1900メートルであったから100メートル登ったことになり、残りは50メートル強 だ。
露岩のあるのが雷岩で、ここからは樹林の中に入り、やや勾配の増した歩道を辿ると山頂だ。 この雷岩からは、カラマツ尾根ルートが分かれていき、上日川峠への近道であるので下山路に良い。
樹林中の登りはまもなく終え、海抜2059メートルの大菩薩嶺に着く。ゴールは、木々に覆われた地味な山頂であ るが、そこに三角点が置かれていて、それを確認したらそのまま引きもどすことになる。
山頂より先、丸川峠に向かうルートもあって、この峠から裂石に直接下ることもできるが、ここまで辿ってきたハイキ ングコースの続きではない。通常は、富士見岩にもどり、カラマツ尾根から下ることになるだろう。
介山荘 10分 親不知の頭 5分 賽の河原 15分 神戸岩 10分 雷岩 5分 大菩薩嶺
介山荘。
親不知の峰へ登る途中から介山荘を見下ろす。
賽の河原
木々に囲まれた大菩薩嶺山頂。
多摩川水系と笛吹川水系を分水する高い稜線を越える峠が大菩薩峠。当然のことながら、そこに登る峠路は東西双方にあり、東の多 摩川側には丹波大菩薩道と小菅大菩薩道の2つの道がある。甲州市側の西の峠路は、自家用車で上日川峠まで入れ、それに比べると 登高もある東側峠路をハイキングコースとして使うことはまれである。いつも閑散としていて、それゆえに新緑や紅葉の行楽時期であ っても静かな山歩きを楽しめるコースだ。
小菅ルートの起点は、多摩川の支流である小菅川に沿ってついている林道小菅線にある。奥多摩駅から運行されている小菅行き バスに乗り、終点の小菅バス停で降りる。村役場のある小菅集落西にバス折り返し場があり、民家の並ぶ車道を西に向け歩き始める と、まもなく集落部分は終わり、小菅川に沿ってつけられた林道小菅線に入る。
小菅林道を歩くと、登山道の少し手前に白糸の滝入口がある。沢の上に支えられた橋を辿ると、一直線に落下する細い滝が現れる。
未舗装の砂利道になり、小菅川のせせらぎ、時に青々と空を塞ぐ木々の葉に涼を感じながら車道を歩いていくと舗装された路面が現れ、 白糸の滝の駐車スペースが設けられている。そのすぐ先に、白糸の滝への探勝路の入口がある。
小菅川北岸に流下している支沢に懸かるこの滝へ向け、探勝路は流れの真上を跨いで設置されている大掛かりな橋で始まり、 右岸の細い踏み跡を辿れば、落差30メートルほどの細く一筋に落下する滝の前に立つことができる。
鑑賞を終え林道に戻ったら、さらに10分ほど歩いたところに大菩薩峠赤沢口登山口がある。ここから林道をさらに進むと雄滝が あって、その先には日向沢登山口もある。しかし両登山道はすぐ合流してしまうので、手前にあるこの赤沢沿いの歩道の方が 使いやすいだろう。
赤沢口登山道に入ると、流れを渡って登りが始まる。まず南に向かって進んでいき、次の沢を渡った先で尾根の背を超 え右に折れと、ここに日向沢ルートが合流している。
しばらくは、自然林中の登りで尾根の背に向け、折り返しながら登っていく。大木も現れ、新緑時には樹葉の隙に露れる 青空を見上げるのは楽しい。歩道が植林に入ると、ノーメダワの分岐が現れる。
このあたりから勾配はほとんどなくなり、30分ほどで丹波ルートが合流するフルコンバ小屋跡に出る。ここは、北側が切 り開かれていて、このルート中で唯一といえる眺望を楽しめる場所だ。天気がよければ、将監峠あたりの奥秩父の山々の並びを 見わたせ、休息に良い。
再び歩き始めると、歩道は南に折れていき、東から尾根が上がってくるところで作業道が分岐している。ニワタシバというところ で、かつて峠を超える荷をここで交換していたことに由来する名だ。
ところどころに石畳の敷かれた歩道を進むと、ルートは左手に折れていき、介山荘が建つ大菩薩峠(1897m)に出る。 介山荘の前から、今辿ってきた奥多摩側の眺望があり、直下には小菅も見えている。
奥多摩駅(バス) 55分 小菅 50分 白糸の滝入口 10分 登山道赤沢口 25分 日向沢登山道合流点 30分 ノーメダワ分岐 30分 フルコンバ小屋跡 15分 ニワタシバ 15分 大菩薩峠
日向沢口:白糸の滝 35分 日向沢口 10分 合流点
奥多摩駅より、西東京バス小菅行きを利用。交通機関
集落から登山道入口へは、小菅林道を進む。白糸の滝の先にあるのが赤沢口で、ここまでバ ス停より約1時間強の歩程だ。
雄滝入口を過ぎ、さらに車道を進むと日向沢登山口がある。
新緑の美しい、自然林の登りが続く。
フルコンバの手前に一箇所、桟道がある。
丹波からの歩道が合わさっているのがフルコンバ。ここはルート中で唯一といえる 眺望の効く場所で、北に奥秩父の山々が並んでいる。
飛竜山、稜線の低まったところは将監峠 、そしてこのあたりの最高峰である唐松尾の高いピークが確認できる.
冬の大菩薩峠。
甲州盆地の先には、南アルプスの峰々が一列に並ぶ。
峠の直下に達する。右上に介山荘が見えている。 | |
裂石より上日川峠に登る歩道. | 大菩薩峠直下からは笹に覆われた明るい峠. |
登ってきた塩山市側を見下ろす. | 葉の完全に落ちてしまった樹林. |
賽の河原 | 丸太組の避難小屋. |
大菩薩嶺.降った雪は氷ついていた. | 丸川峠からは夕暮れ時の歩道を裂石に向けて下った. |
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