国道336に沿って走ってきたバスは襟裳町に入る.岬に向かう道路に入とあたりは草地になる.
ここ襟裳町は日高昆布の産地、狭い海岸線には今が最盛期の昆布干しが家族総出で行われていた.
軽トラックで運ばれてきた昆布は砂利の上にていねいに並べられていく.
岬に着きバスを降りると、土産もの屋が建ち並んでいる.ここは観光客も多く騒がしい.その向こうで霧笛は鳴りつづけている.
残念ながら、今日の岬の風景は霧で霞んでしまっていた.
東経143.14、北緯41.55度、当然のことながら北海道の最南端は青函トンネルの越えている白神岬であるが
、地図で見ていると襟裳岬は北の宗谷岬と対峙する感じがして北海道の南端にいるような気がする.三角形に突き出た
岬の形も印象的なら、その両側には日高と十勝川に向かってほぼまっすぐの海岸が続き、これもまた北に突き出した宗谷岬
とともに北海道の形状でもっとも私の記憶に残っている場所である.
地図でみてよく知っていた三角形の先端に、今立っていることになる.
次のバスが来るまではずいぶん時間があるから、岬に立つ風の館に入った.
風の強い町にちなんでつくられた観光施設である.
こんなに太平洋に突き出ていたら風も強そうである.
そういえば先ほど市街の高校のところにも、発電用の風車が建ててあった.
沖には岩礁が続き、その上にはゼニガタが生息していることでもこの岬は有名である.
館内には、沖のゼニガタアザラシを見るモニターも設置されていたけれど、今日の霧では残念ながら見えそうにない.
ガラス窓越しの沖に続く岩礁もかすんでしまっている.風が吹いて霧の晴れるのを期待しながら、展示物を眺めて
いった.沖を見渡す窓の場所に戻るとほんの一瞬晴れた.しかしすぐに霞んでしまった.
沖の岩礁がはっきり写った写真は、結局このときの一枚限りであった.
時間つぶしもどうにか終わり、土産もの屋で食事をし、バス待合場に戻った.定刻に広尾行きのバスが入ってきた.広々とした百人浜あたりの景観を終えると、
駒止という集落になったあたりからは海岸が狭くなる.ここは、建設には多額の費用がかかったことから黄金道路と呼ばれている場所である.断崖の下を通って
いる現在の車道はまさにお金をつぎ込んで作られているからかなり立派だけれど、ところどころに残っている古い車道を見ると、作られた当時は道は通じたとはい
え絶壁と荒波のたたきつける海の間を心細い思いをして抜けたのだと思う.
今日はさほど疲れていないはずなのに、履道の続く単調さも手伝ってか、眠気が襲ってきた.うとうとして、ふと気づいた時には、もう広尾の市街地
に出ていた.交差点を曲がり広尾のターミナルに着いた.ここは、待合場所として1987年に廃線となった広尾線の駅舎がそのまま使われ
ていた.帯広行きのバスの連絡は15分後、切符を買い、缶ジュースを抱えて入ってきたバスに乗り込んだ.
広尾を出ると、十勝の平原地帯に入った.釧路に向かう国道336号と236号の分岐に出る。まだ帯広は70キロメートル先であることを標識は示していた。
左手には日高山脈であろう.山々が並んでいる.
農地の中をひたすら走っていくから、バス停名は線をカウントダウンしていくだけだ.降りる人も乗ってくる人もほとんどないから、
バス停ごとにほぼ定間隔で機械的に案内放送が流れるだけである.無機的な繰り返しはただ前進していることを確信させてくれるのみであった.
やがて帯広市街地に入ると、今度は号をカウントダウンし始めた.しかしカウントが0に達する前に、バスは鉄道のためのコンクリートの立体交差をくぐり
閑散とした駅前に止まった.