私は北海道に向かう前夜になって、日高のこの低山に登ることを急に決めた.
この山のことはこれまでまったく知らなかったのであるが、ガイドブックで探
していて、その写真に目が止まったのである.
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レンガ作りの5合目休息小屋 |
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稜線上から馬の背を振り返る |
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馬の背から5合目小屋を見下ろす |
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ダケカンバに取り巻かれた
山頂は三角点を確認するだけで視界はない.幌満方面登山道のお花畑経由で下ることにした. |
幸い手軽に登れそうである.今回
の北海道行きの目的は、少しだけ忍耐が必要なことで知られているトムラウシ山
に登ることである.北海道に着くなりこの目標を達成してしまって、あとは観光
というのもあまりにつまらないので、旅行前半に気楽な山をひとつだけ登っておこうと考えた
のである.
いざ行くとなると、どう行ったらいいものか思いつかない.日高本線に乗ればいいだろう.
結局東京での計画はそこまでで、翌朝は眠いまま羽田の混雑の中にいた.
飛行機に乗ってしまえば千歳空港は近い.奥多摩あたりのアプローチに鉄道に揺られて
いるくらいの時間で北海道に着いてしまう。おまけに最近は航空会社の競合のおかげで、
運賃割引も大きいから、本当に手軽にいける場所になった.
電車が空港駅の地下トンネルを出て、そんなことを考えながら、思い出したのは
昨夏からちょうど1年間でこの空港に降りたのは3回目であることであった.
前回は、小樽に向かった.トンネルを出ると線路は雪の白一色の中に続いていた.
今日は、日高本線に乗るのだから苫小牧に出なければならない.南千歳で乗り換える
ことになる.早速降りなければならないことに気づいた.苫小牧行きに乗り換えると列車
は緑の中を走っていく.夏の日差しが強すぎるのであろうか、周りの木々の葉は少ししお
れている.
これから向かうアポイ岳は日高の山々の中でもっとも容易に登れる山のようである.
810.6mと標高は低い.だいたい2時間半で頂上に立てる高さである.
しかしなによりアプローチがよいのである.東京から行くとなるとJR日高本線の終点
様似駅は遠く地の果てのように感じるけれど、そこまで電車の長旅とはいえ、着いて
しまえばあとは襟裳岬方面に向かうバスで10分ほどで登山口のバス停に着ける.
北海道では公共の交通機関でアクセスできない山ばかりであるからこれは例外的で
さえある.長い林道を延々と歩く必要がないだけでとてもありがたく感じる.
ここの山麓には町が設置したアポイ山荘という宿やもあり、キャンプ場も整備されている.
苫小牧に着くと、キャンプ場を確認することにした.まさかこの時期休業中とは思えない
けれど、一応電話してみることにした.日高線鵡川行きの発車はもうすぐだが、私は次の
静内行きに乗るつもりである.1時間ほど待ち時間がある.改札を出て駅前に出てみる
ことにした.電話番号を探しだし電話をすれば大丈夫ようであった.
苫小牧の駅前には、ショッピングセンターが4つもある.中には書店もあるだろうから、
時間つぶしをかねて資料を物色しにいくことにした.何しろ昨日決めたのであるから地
図も買っていない.私の頭にある日高は、社会科の地図帳にある数十万分の一の
地図のものであるから、ガイドブックに出ているそれぞれの町の位置関係さえさっぱりわから
ない.そこに住んでいる人には失礼だと思うが、東京に住む私にとって日高と聞いて思い
浮かべるのは、昆布と山にはヒグマがいることくらいである.
国土地理院の地形図は入手できなかったから、代わりに北海道の道路マップを買うこと
にした.これ以上の縮尺のものは手に入らないから仕方がない.それと運悪く「なまら蝦夷3号」が平積に
なっていたのでこれも手にとった.トムラウシに登るときの足手纏いとなることは明白であったから、買おうか迷ったが、
また探すのも面倒なのでここで購入していくことにした.
駅にもどると、静内行きのディーゼルカーはもうホームに入っていた.弁当を買って乗り
込む.走り始めると緑一面の湿地のようなところを進んでいく.買ったばかりの道路マップ
を広げ、日高線を追う.大きな川を越えると浜厚、浜辺のすぐ横をディーゼルカーは走っていく。
空は少し暗くて、海をみても波打ち際しか見えない。
川越えは位置の確認が容易だ、今渡った水量の多い川は富川であろう.放牧地が現れた.
忘れていたが、日高といえば馬もあったのである.長くもあり、短くもある時間は過ぎ去り
静内駅に着いた。特に目的はないけれど、接続する列車は1時間後であるから、外に出る。
静内はそれでも日高地方の中心地だけに少しだけ大きな町である。小さな駅には駅員もいる。
ベンチに荷物をおき、表に出てみたけれど駅前とはいえ何もない。構内でそばを食べることにし
た。観光案内パンフレットを読みながら時間をつぶすことにする。
この町には名馬を育てる牧場が点在する。北海道と馬とくれば大平原の牧場というイメージを、
持っていたのであるが、実際には海岸まじかの小さな町が競走馬のふるさとであったのだ。
やっと次に列車が入ってきた。夏季のみ運行の札幌行きの対向列車を待って走り始めた。夏なら、襟裳岬観光のために日高本線を使う人
もいるのだろうか。少しだけ山側に進路が変わった。周囲には、柵で区切られた緑一面の放牧地が並んでいる。
比較的大きな浦河、ここには日高支庁もあって行政の中心地でもある。砂浜に線路を敷いたと思えるほど海
岸ぎりぎりにレールが走る。景観はもう北海道の寒村の鉄道に変わっていた。
夕方6時前、終着の様似駅に着く。バスはまだ来ていないようだ。駅舎内にある観光案内所で一応乗り場を
確認した。観光パンフレットを物色し、バスを待つ。
バスは海にそって走っていく。集落ごとに乗客を降ろしていく。そして私が降りるアポイ岳登山口に
着いた。バス停は漁小屋が建つ浜のすぐ前だ。少し傾斜のある、アポイ山荘への車道を歩くと
10分でキャンプ場に着く。テントを設営し、夕飯を作ることにした。