芦別川の方から登山道はないようで、富良野盆地の南端から登ることになる。以前は、空知川支流ユウフレ川に沿って登ら れていたようで、旧道はこちらにあるようだ。今回私が登ったのは新道で、ユウフレ沢の南の尾根にそってつけられている。 せっかく出かけていくからには、両道とも使ってみたかったけれど、旧道を登ると麓からの日帰りは時間的にちょっときつそうな ので、私は容易な新道を往復することにした。
地名事典を開いてみると、川底深く険しいことを意味するアイヌ語「アシュベツ」が語源とある。 登ってみて、確かにこの山の谷は深い。
帯広空港への着陸態勢に入っても、 帯広平野は厚く雲で覆われ、滑走路は一向に見えてこなかった。飛行機の窓に、広い農地とそこに点在する赤屋根が見えたのは、 機体が低い雲の下まで降りた着陸直前であった。
帯広駅に向かうバスが空港の敷地を出ると、幸福駅に3kmと表示があらわれた。廃線となった広尾線の駅跡で、今では使う 人はないのだから標識をつけておく必要もないはずだが、名が変わっているだけに観光名所になっているのであろう。 かつてあった広尾線は、昭和初期に線路が敷かれ、60年に満たない期間使われただけで、赤字のために廃止されている。
広い耕地や防風林、私は人々の作り出した北海道の風景が好きだ。北海道は自然だけではなく、わずか100年の間に急速に 拡大していった人々の生活に魅力を感じる。農家には大きなガレージがあって、大掛かりなトラクターがおかれていた。北海道 イコール農産物という考え方が私に染み付いているのも、子供のころ店頭で見た豆やコーンの包装に印刷されていた、十勝や帯 広という産地名に影響されているのではないかと思う。帯広平野は農作地帯であり、帯広がその中心都市である。
道路脇の畑に目をやると、そこには豆が一面に植えられている。さやはもう茶色に変わっているからすぐ収穫されるので あろう。畑にはとうもろこしも実っている。子供のころ買ったホクレンのコーンなども、このあたりで収穫され加工されてはる ばる私の田舎まで運ばれてきていたのである。
号のつくバス停が現れ、市街地に入ったことを知る。帯広市街は、条と号で整然と区画されていて、13号の次は駅に着いた。 駅前のショッピングセンターに入り、まず必ず必要になりそうなこうもり傘を買った。山中なら雨合羽の方が使いやすいが、山に 着く前に雨が降り出してもおかしくない雲行きであった。
次にまだ朝食を食べていなかったので、ファーストフードに入り、切り取ってもってきた時刻表のページをめくりながら、 今日の行動計画を立てることにした。芦別岳に登るにはJR根室本線の山部駅まで行かなくてはならない。鉄道旅行の計画を立 てる時の曲者は、運行本数が極端に減る峠越えである。富良野へは狩勝峠を越えなくてはならないから、乗り遅れると、予定が 大幅に変わってしまう。時刻表によれば、正午過ぎに帯広を出発しなくてはならないようだ。次だと、日が暮れてからキャンプ 場につくことになってしまうから純iを仕掛けて再び汽車に乗るという、大正末期ののどかな峠越えが出ているが、それだけ難所で あって汽車もゆっくり走っていたのであろう。
この古い方の線路はそのあとも、脱線の試験線として使われていたようだ。 このことで、やっと思い出したのは、今年春先日比谷線のニュースでながされた、北海道の廃線を使った脱線試験の映像のことである。 そのときは場所まで気にしなかったから忘れてしまったが、ここで実施されたものだったのかもしれない。 このニュースを見たとき、実機を使った脱線試験が行われていることにまず驚いたが、北海道のどこかにそんな実験をしても支障のないような 試験場があっても不思議はないと感じたし、映像では広大な原野という感じのところを走っていたのが印象的であった。
熊沼湿原 | 歩道脇にはヤマリンドウの紫色が目立った |
ユーフレ沢の対岸には夫婦岩がそそり立つ | 展望台に立つと、山部から富良野にかけての畑作地が見渡せる |
トンネルを越え、空の色が一変したのには驚いた。先ほどまでたちこめていた雲はもうまったくなくなり、青空が広がっている。 右手を流れている空知川の行く末は石狩川と合流し石狩湾に注いでいるのであるから、ここから日本海側に入ったことになる。 かつて、東蝦夷、西蝦夷と呼び分けられていたのも、このような峠による往来がなかったからであろう。
陽に照らされてあたりの緑は鮮やかだ。峠を越えて下りに転じた列車は重力を味方につけスピードを増し、軽やかな走りになった。 北海道まできて、明日雨の中登らなければならないとあきらめていた重苦しさも一挙に明に転じてしまった。
山中の無人駅落合を出ると、次の駅は幾寅。映画「鉄道員」のロケに使われた場所で、駐車場には観光バスも止まっているような観光名所の 仲間入りをしたようだ。映画では一面の白い雪の中を走っていく赤い車両が印象的であったが、もうすぐ迎える秋を終えるとこのあたりも雪に埋もれるのであろうか。 北海道の短い夏の終わり、今は鮮やかなあたりの木々の緑もやがてなくなる。空知川が平行して流れ、盆地に出た。視野は急に広くなる。
山部の駅に着いた。駅舎横の車庫にタクシーが停まっていた。車庫の座敷で休んでいた運転手に行き先を告げると、部屋の鍵を閉め て出てきた。地図でみて思い浮かべていたとおり、畑の間をまっすぐ進む農道を、タクシーは進み、山に突き当たって右折、キャンプ場前に出た。
雲峰山からみた山頂部と山頂 |
屏風岩 |