南アルプス南部の小屋は、水源をもつ低い部分に建てられていることから、それらをつなぐ計画にはいつも苦労させられる。 この荒川三山もそのひとつで、赤石岳まで登るとはいえ最低3泊が必要だ.
まず、この山域の起点となる静岡市街をスタートし登山口となる椹島までの道のりが長い.バスの場合、静岡駅前から終点 畑薙ダムで3時間かかる上、そこから東海フォレストの送迎バスはさらに1時間を必要とする.バスの運行時刻と乗り継ぎが順 調にいくわけではないから、この場合、初日は椹島まで辿りつくだけで費やされてしまう.
自家用車で早朝静岡市街を出発し、うまく送迎バスを乗り継げれば、昼から登り始めて千枚小屋までその日にうちにたどり 着くことも可能だろう.ただ、コースは比較的緩いはいえ長い登路であることから、暑い夏の午後、ここを登っていくのは結構 こたえ、体力に自信がなければ計画しないほうが無難かもしれない.したがって、一日めは時間を余らせながらも、椹島で泊ま ることになる.
2日めも、通常ペースであれば千枚小屋で昼になってしまうので、それから荒川三山の稜線を越えて、荒川小屋に達するのは やや行程に無理が出る.3日めに椹島小屋まで下るためには荒川小屋まで進んでおかざるを得ないから、椹島のスタートを早め ややペースをあげて登るか、これが困難であれば早々切り上げ、千枚小屋で一泊することになる.
千枚小屋で泊まった場合、翌日は三山と赤石岳を縦走してから赤石小屋まで下り、ここで3泊めとして、4日目を下山 にあてる.もし、この行程が厳しいなら、2日目は極端に短くなってしまうが、荒川小屋で泊り、さらに一日追加することにな る.荒川小屋まで進んでいた場合、その日のうちに椹島へ下ることになるが、そのまま帰路につくのはやや難しく、椹島で一 泊するのが普通だろう.
私は2003年、1泊目椹島ロッヂ、2泊目荒川小屋の2泊3日で荒川三山と赤石岳に登った.これが東京起 点、公共交通手段を使用した場合の最短日程であろう.このときの写真、記録を中心にこのページはまとめた. 2008年より、路線バスの運行が廃止され、このとき使用した午後3時代畑薙発のバスが利用できなくなった ので、現在このスケジュールは不可能なようである.
椹島から千枚小屋
椹島ロッヂの入口から車道を北に5分ほど進むと、滝見橋という奥西河内沢にかかる緑色のトラス橋に出る。この橋の袂が 登山道の入口になっていて、金属製の桟道を下ると滝の真下を越えて沢沿いの道に降りれる。
奥に堰堤があり横を流れる沢の水 量は多くない。この沢の源頭一帯が、目的地の荒川三山から小赤石尾根だ。吊橋で左岸に渡って、細い道をたどると、堰堤の管 理道が分岐し斜面の急登に変わる。
30分ほどの登りはきついが、鉄塔の横に出るとルートは東側に折れていき、しばらく緩い道が続き、鉄塔の真下に出る。 その先、眺望のある岩を越えると歩道は下りとなる。 歩道は先ほどの鉄塔の巡視道となっていて、階段状に整備された場所を登っていくと林道に出る。
登山道続きは林道を100m ほど東側に行ったところに続いていて、金属製のステップが架かっていて、これを登ると九十九折れの急登続きで苦しめられるが、この区間を終えれば細林の中の緩い道となり、小石下に出る。
緩い登りを辿ると、再び車道に出る。歩道はすぐ反対側にあり、ルートは中河内沢側によってくる。水音が響いてきて、 右手に折れたところが清水平で、千枚小屋までの唯一の水場だ.ここから急な登りとなり、疲れも出てきていてきつく感じる 場所であろう。やや緩くなるが登りはまだ続き蕨段と名づけれれた場所を過ぎれば、見晴台に着く。
朝の出発では、昼食をとるのに絶好の場所で、右手の車道まで登ると、天気がよければ赤石岳、荒川三山から千枚岳にかけ ての視界が広がる。
ちょうど向かい、沢の詰めたところに荒川小屋が見え、赤石岳の手前には小赤石尾根も連なっていて、これ からたどることになるコース全体が見渡せる。展望を楽しむついでに、十分休憩をとるべきだろう。
ここからが正念場。ふたたび長い登りが始まる。シラビソの林の中を登ると、右手の下に駒鳥池と呼ばれる沼地が現れ、 すぐ先に降口があるがあえて寄り道するほどでもない。
やがて千枚小屋の荷揚げ用架線の下に出る。架線は谷を跨いで小 屋に向かっているので、小屋の位置を特定するのは容易だが、まだ谷の源頭部を巻きながら登っていく道のりは残っている。
鳥兜が群生する場所に出ると、小屋15分の表示が現れ、最後の登りをほぼこの時間で登ると小屋の入口に出る。そのまま 進めば千枚岳方向であるが、富士の眺望の良いこの小屋は、最後の水場でもあるので休憩する。
三山縦走
通常のペースであれば、千枚小屋に着くのは昼過ぎとなり、やや早いがここで一泊するのが一般的だ。先の荒川小屋まで 進む計画であれば、椹島は早めに出発し、装備もできるだけ軽くして一気に登って10時ころまでに、この小屋を通過すべき だろう。
千枚小屋を出発すると周辺は見事なお花畑になっていて、樺の下に続く歩道を稜線に向かう。20分ほど登ると、 万斧(マンノー)尾根からの道が合流し、樹林帯は終えて這松とガレの稜線に出る。谷を挟んで赤石岳がよく見える場所で、 千枚岳はここから10分ほどの登りだ。
千枚岳山頂に立つと、まだ長い東岳の登路を見上げることになる。肝心の東岳山頂 まで、まだ登りが続いて時間もかかる。
ここからは稜線の道、容赦なく日が照りつけ、風があれば吹き上げてくるのできつい区間であるが、晴れていて 見晴らしが良ければ最高に楽しい登りとなる。そろそろ山頂と期待したいが、まず手前のピークである丸山に出る。 ここも3000メートル代のピークであるが、岩稜ではなく名前の通り丸みを帯びた広々とした場所で視界が良い。 天気がよければ絶好の休憩場所だろう。
岩の間を登るようになると東岳のピークに出る。眺望の良いこと文句なし、南アルプス全域を見渡せる場所だ。
東岳から中岳の間は、一端コルへ下って登りかえしとなるからここもややきつい。千枚小屋を出発した場合には、その日のうちに赤石 小屋まで進むのが一般的なようだから、まだまだ行程は始まったばかりだ。せっかく登ったところを下って、登り返しを必要とするこ の場所はなんとも惜しく感じることだろう。
中岳山頂の手前には非難小屋がある。稜線に出てから荒川小屋にたどり着く自信がなくな れば、ここで宿泊することになろう。夏季非難小屋は管理人が入り、飲み物等の販売はあるが、稜線上ゆえ水の補給はできない。 小屋の西に中岳の三角点があり、稜線伝いに歩いて前岳はすぐ先だ。
前岳の西側は、この山の名の元になった荒川の崩壊地帯で切れ 落ちている。この崩壊部の縁を三伏峠方面の縦走路は沿っている.縦走路の合流点に戻り、南側へ下れば、急坂の1時間ほどの下りで 荒川小屋に着く。
荒川小屋から赤石岳
荒川小屋は、荒川前岳と赤石岳の鞍部、西河内沢源頭に建つ小屋で、この沢のくぼみの先には富士が見える。
椹島から無事1日で ここまで達することができ、椹島でもう一泊するつもりであれば、翌日の日程はそれほど厳しくないはずだ。小屋の前で赤く染まる 富士を見てから、赤石岳へ向けて出発する。
しばらく大聖寺平らに向かう平坦な道を進み、小渋川からの道が合わさると、小赤石稜 線へ向けての登りが始まる。急登を追えて稜線に出れば、富士の姿が再び現れた。小赤石岳の先から一旦下れば、北沢のコルに降り、 椹島への分岐がある。
ここで荷物をおき、山頂を往復する.ガレを登れば最高所の一等三角点の乗った赤石岳の山頂に立つ.山頂の すぐ下には非難小屋が建っている。
椹島に下山
荷物を置いたコルにもどり、下りを始める。北沢へ下りていくと水が現れ、再び緩い登りで尾根に登り返す。富士見平という見 晴らしの良い場所に出れば、名前の通り東に富士が現れるが、もう散々富士は見尽くしたので、荒川三山の眺望を楽しむことにした 。千枚岳から荒川三山の稜線をひととおり見渡すことができる。
細林に入り、赤石小屋の前を過ぎれば、いよいよ林中の急な下りが始まる。急な下りが続き、気の滅入るルートであるが、椹島への最後の部分は九十九の下り続きとなり膝の負担となるから、あまり とばしすぎず多めに休息を入れながら、足を休ませて下る。
古い林道跡を2つ越えると、九十九折れのくだりに入る.最後だけに足もだいぶ、ふらついてきていてきつい場所だ。車道に出る と、すぐ前にロッヂ入口があり、その脇にある歩道を下ればロッヂ前に出る。
赤石岳(2万5千分の1)
登山用地図で、私の持っているのは、山と高原地図・42 塩見・赤石・聖岳
JR静岡駅前より、 しずてつジャストラインが畑薙第一ダム行きバスを運行している. 2008年、路線は廃止され、登山者を対象とした夏季のみの非定期運行に変わった。
畑薙より 東海フォレスト送迎バスを利用してさわら島ロッヂに向かう.送迎バスは、東海フォレスト経営 の小屋で宿泊する者に限定されていて、乗車時、宿泊代金の一部を支払うようになっている.送 迎バス乗場は、ダムの手前に設置される登山者用駐車場脇にある.
2003年の山行で実際にかかった時間を記してあります. 途中何回か取った休憩時間は含まれていません.
- 第1日
- 静岡駅
- 3時間
- 畑薙ダム
- 60分
- 椹島ロッヂ
- 第2日
- 椹島ロッヂ
- 10分
- 登山道入口
- 75分
- 小石下
- 45分
- 清水平
- 45分
- 見晴台
- 80分
- 千枚小屋
- 40分
- 千枚岳
- 45分
- 丸山
- 25分
- 悪沢岳
- 55分
- 中岳
- 15分
- 前岳
- 45分
- 荒川小屋
- 第3日
- 荒川小屋
- 30分
- 分岐
- 55分
- 小赤石
- 5分
- 鞍部
- 15分
- 赤石岳
- 10分
- 鞍部
- 65分
- 富士見平
- 20分
- 赤石小屋
- 115分
- 椹島ロッヂ
- 55分
- 畑薙ダム
- 3時間
- 静岡駅
2003年の山行で利用したのは、椹島ロッヂ、荒川小屋の2箇所.千枚小屋、赤石小屋も利用可能 で、荒川小屋でなく、それぞれに一泊するのが普通のようだ.また、赤石岳と中岳の山頂には避難小屋がある. いずれも運営は東海フォレスト.